アマシス2世

アマシス2世（イアフメス2世）の生涯と治世

古代エジプト第26王朝のファラオ、アマシス2世（またはイアフメス2世、在位: 紀元前570年 - 紀元前526年）は、ペルシアによる征服が迫る激動の時代において、エジプト最後の偉大な支配者としてその名を歴史に残しています。前任者アプリエスの後を継ぎ、約45年間にわたりエジプトを統治しました。

古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの記録によると、アマシスは王家の血筋ではなく、平民の出身でした。彼の母はタシェレニセトといい、現在大英博物館には彼女の胸像が収蔵されています。アマシスはナイル川デルタにあるサイスのシウフで生まれ育ち、キャリアの始まりはエジプト軍の将校でした。紀元前592年には、ファラオであるプサムテク2世がヌビアで行った軍事作戦にも参加しています。

アマシスが王位に就くきっかけとなったのは、エジプト兵の間で起きた反乱でした。リビアのキュレネ遠征から帰国した兵士たちは、ファラオ・アプリエスが外国人であるギリシア人傭兵を重用し、彼らを裏切ったのではないかという疑念を抱きました。この疑念は多くのエジプト人の共感を呼び、大規模な反乱へと発展します。この反乱を鎮圧するために派遣されたのが、将軍アマシスでした。しかし、反乱軍はアマシスを自らの指導者として祭り上げ、彼をファラオに擁立したのです。孤立したアプリエスはギリシア人傭兵に頼るしかなくなり、戦いに敗れて逃走しました。アプリエスはバビロニアへ亡命しましたが、紀元前567年にはバビロニア軍の後援を受けて故郷への侵攻を試みます。しかし、彼は捕らえられ、殺害されました。このエジプト兵と外国人兵士との対立、そしてアプリエスの死については、当時の碑文によっても確認されています。自らの王権を盤石なものとするため、アマシスは先代アプリエスの娘とされるケデブネイトイルビネト2世と結婚しました。

アマシスの治世は、エジプトに空前の繁栄をもたらしました。彼の死の直後にエジプトを訪れたヘロドトスは、アマシス時代が農業経済において最高の絶頂期であり、エジプト全土には2万もの都市があったと記録しています。アマシスは慎重な統治を行い、特に下エジプトの神殿を美しい一枚岩の祠や壮麗な記念碑で飾り立てました。これらの建築活動の証拠は、現在も現存する遺跡によって裏付けられています。

国際関係においても、アマシスは積極的に外交を展開しました。特にギリシアとの関係をかつてないほど緊密にし、貿易や文化交流を促進しました。リビアのキュレネ王バトゥス3世の娘ラディチェを妃として迎えたほか、エーゲ海世界の強国であったサモスの僭主ポリュクラテスや、リュディアの王クロイソスといった有力者たちと同盟を結びました。彼の王国は当初ナイル川の第一急湍まででしたが、キプロス島もその支配下に加え、リビアのキュレネに対しても強い影響力を行使しました。また、紀元前567年頃には、バビロニアの強力な王ネブカドネザル2世がエジプト侵攻を試みましたが、アマシスは見事にこれを撃退しました。この敗北により、バビロニアはエジプトへの再攻撃を断念せざるを得なくなります。

しかし、アマシスの晩年には、東方の大国ペルシアとの緊張が高まりました。ヘロドトスによると、ペルシアの王（カンビュセス2世またはキュロス2世）は、腕の良いエジプト人眼科医を求める使者を送ります。アマシスはこの要求に応じましたが、送られた医師は強制的な移住と家族との別れに恨みを抱きました。ペルシア王に接近した医師は、エジプトとの関係を強化するためにアマシスの娘を娶ることを提案します。ペルシア王がアマシスに娘の輿入れを求めると、アマシスは娘が妾になることを恐れ、本物の娘ではなく、かつてアマシスによって殺害されたとされる先代ファラオ・アプリエスの娘ニテティスを身代わりとしてペルシアへ送るという計略を立てました。しかし、「背が高く美しい」とヘロドトスが記したニテティスは、ペルシア王に自らの本当の出自とアマシスの策略をすべて明かしてしまいます。これに激怒したカンビュセスは、エジプトへの復讐を誓いました。

アマシス自身は、カンビュセスによるペルシアのエジプト侵攻が始まる直前の紀元前526年に死去しました。彼の遺体はサイスの王家ネクロポリスに埋葬されましたが、その墓は今日に至るまで発見されていません。アマシスの死後、跡を継いだ嫡男のプサムテク3世は、紀元前525年のペルシウムの戦いでペルシア軍に敗れ、エジプトはアケメネス朝ペルシアの属州となりました。

ヘロドトスは、ペルシア王カンビュセスがエジプトを征服した際に、アマシスのミイラが凄惨な冒涜を受けたことを伝えています。カンビュセスはアマシスの遺体を墓から引きずり出し、鞭で打ち、櫂で突き刺し、髪をむしり取るなど、様々な侮辱行為を行いました。遺体は防腐処理されていたため、物理的な衝撃では粉々にならず、最終的にカンビュセスはミイラを燃やさせたと言われています。

このように、アマシス2世の時代は、外敵からの防衛と国内の繁栄を両立させた、エジプト古王朝の輝きが最後に強く灯った時期でした。彼の死と共に、独立したエジプトの歴史は一時的に幕を閉じることになります。

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