アリシア・Y

『アリシア・Y』(ALICIA.Y)は、漫画家・後藤寿庵が手掛けた日本の漫画作品です。H.P.ラヴクラフトによるクトゥルフ神話作品、『ダニッチの怪』から数十年後の世界を舞台としており、神話的な存在や異形が登場するアクションホラーとして展開されます。

本作は、当初富士見出版の『キャンディータイム海賊版』に連載されました。連載開始に先立ち、笠倉出版社の『月刊COMICロリポップ』に掲載された予告編では、『封印者』という別タイトルが用いられています。

単行本は茜新社から全1巻が刊行されましたが、現在は絶版となっています。その後、2010年 6月27日からは作者の後藤氏が運営するサークル「千堂屋」を通じて、DLsite.comにて電子書籍版が販売されていました。この電子書籍版には単行本の内容に加え、ぶんか社から2006年に出版された『クトゥルー神話ダークナビゲーション』に掲載された外伝『アリシア・Y外伝ロバート・ゴドラムの研究』（主人公アリシアのミスカトニック大学在学時代を描く）も収録されていましたが、こちらも2013年以降は販売を終了しています。

現在、本作を入手する方法としては、2015年からのマンガ図書館Zでの無料公開、および同年1月7日からAmazon Kindleでの販売が挙げられます。これら現行の配信版には、単行本未収録の外伝に加え、書き下ろしの短編『アリシア・Y 20周年おまけ漫画』が併録されています。

ストーリー

物語は1999年のロンドンで始まります。海底神殿への入り口を求め、連続殺人を繰り返していたインスマスの半魚人たちの前に、一人の少女が現れます。彼女の名はアリシア＝Y＝アーミティッジ。新たな犠牲者を生み出そうとしていた半魚人たちを、彼女は瞬く間に殲滅します。

一方、アリシアの友人である小説家の響さつきは、イギリスの空港に到着します。そこでアリシアの知人を名乗るナイアールに出迎えられますが、その直後に搭乗機が空港に衝突するという不穏な事件が発生します。

登場人物

アリシアと協力者

アリシア＝Y＝アーミティッジ
本作の主人公。外見は14歳か15歳の少女に見えますが、実年齢は8歳です。特異な才能を持ち、4歳でミスカトニック大学に入学し、わずか6歳で卒業しています。一人称は「ボク」。顔には大きな傷跡があり、右目を眼帯で覆っています。
彼女は、『ダニッチの怪』に登場するウェイトリー一族の末裔が、アーミティッジ教授らによって計画を阻止された復讐として、魔術を用いてアーミティッジ家の子孫の女性に産ませた、ヨグ＝ソトースの娘です。ミドルネームの「Y」は“ヨグ＝ソトース”を意味しています。本来はアリシア＝Y＝ウェイトリーという名でしたが、幼少期の辛い記憶から改姓しました。常人離れした成長速度も、ヨグ＝ソトースの子であることに由来します。作者の別作品『シャーリィ・ホームズ』の最終回にも登場しており、ナイアールと関係を持ったことが示唆されています。

ナイアール
褐色の肌を持つ美しい青年。その正体は、クトゥルフ神話における外なる神「這い寄る混沌」ナイアーラトテップです。アリシアと行動を共にすることが多く、その際には黒猫の姿をとることもあります。最終決戦では、燃える三眼を持つ異形の姿となります。

響さつき（ひびきさつき）
小説家。アリシアのミスカトニック大学在学時代からの友人で、親しみを込めて「AYAちゃん」と呼びます。

犬丸大丞（いぬまるだいすけ）
日本出身のジャーナリスト。妻と息子（龍一）がいます。満月の夜には狼男に変貌する能力を持ち、その力は12世紀から受け継がれています。ナイアールによると、彼は神々が眠りについた際にその眠りを妨げぬよう力を与えられた種族「封印守護者」の出自ですが、本人は自らの秘密を知りません。満月の夜であれば、心臓を貫かれ、半身を引き裂かれても死なないほどの驚異的な生命力を持ち、全力を解放すれば核兵器にも匹敵する破壊力を発揮します。家庭では妻に全く頭が上がりません。作者の後藤氏によれば、彼はもともと少年誌の新人賞に応募するために描かれた伝奇ラブコメ作品から導入されたキャラクターとのことです。

ランドルフ・カーター
H.P.ラヴクラフトの多くの作品に登場する人物。本作ではナイアールに協力を求められ、敵の策略によって封印されたアリシアを、彼が持つ「銀の鍵」の力で救い出します。その正体は、自らを夢の国の住人「ランドルフ・カーター」とすることで神の知に至りながらも、その知識を書物のごとく利用するに留めた、ラヴクラフト本人であるとされています。

敵対者

ジョン・ディー
ルネサンス期イングランドの著名な数学者にして魔道士。アブドゥル・アルハザードによる禁断の書「ネクロノミコン」を英訳した際に得た知識により不死の存在となり、外なる神アザトースの守護を得ています。神の知を得ることを目的とし、クトゥルーの復活を目論みます。彼はウェイトリー一族がヨグ＝ソトース召喚に用いた16世紀版ネクロノミコンを翻訳した人物であり、アリシアとは浅からぬ因縁があります。不死とはいえ、活動するには1年の活動に対して111年の冬眠が必要という制約があります。また、歴史上死亡したことになっている時期から350年ほどの間に活動できた期間は20年にも満たず、時代の変化に対応できていない古いタイプの魔道士として描かれます。

エロール
ジョン・ディーによって生み出されたホムンクルス。グールを率いて響さつきと犬丸大丞を襲撃しますが、狼男化した犬丸の圧倒的な力の前に敗れ去ります。

インスマスの半魚人
物語の冒頭に登場。集団で連続殺人を繰り返していました。アリシアによってほとんどが倒され、生き残ったリーダー格もジョン・ディーに始末されました。

グール
第3話に登場。エロールに率いられ、犬丸とさつきを襲いました。

神々

クトゥルー
ナイアールから「水の王」と呼ばれる神性。ジョン・ディーによって復活が企てられます。

* ヨグ＝ソトース
始まりも終わりもない、無限小の点が無限に連なる世界こそが真の姿とされ、その本質は無限の情報を内包する光の集積体とされます。クトゥルーやハスター、アザトースといった他の神々のみならず、宇宙そのものすらヨグ＝ソトースの大海に浮かぶ微小な泡に過ぎないと言われる、根源的な存在。主人公アリシアの父親にあたります。

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