アルダシール3世

アルダシール3世：サーサーン朝の幼き王の短い生涯

アルダシール3世（在位：628年9月6日 - 630年4月27日）は、サーサーン朝のシャーハンシャー（王の中の王）でした。父はカワード2世、母は東ローマ帝国の王女アンゾイ。しかし、出自ゆえに国内での人気は低く、わずか7歳で即位したものの、ミフラーン家のシャフルバラーズによって処刑され、王位を簒奪されるという悲劇的な運命をたどりました。

即位までの経緯

アルダシール3世は、父カワード2世と東ローマ帝国の王女アンゾイの間に生まれました。当時のサーサーン朝は東ローマ帝国と長きにわたる戦争を繰り広げていたため、東ローマ帝国の血を引くアルダシール3世は、国内で人気がありませんでした。628年、父カワード2世が宮廷クーデターによってホスロー2世を処刑し王位に就きましたが、その直後にイラン西部で疫病が流行し、カワード2世自身も命を落としました。

治世

628年9月26日、カワード2世の死後、高位貴族たちはわずか7歳のアルダシール3世を皇帝に擁立しました。幼いアルダシール3世に実権はなく、イスパフベダーン家のマーフ・アードゥル・グシュナスプが大宰相として国政を掌握しました。マーフ・アードゥル・グシュナスプは、アルダシール3世が親政を行える年齢になるまで帝国を守るという重責を担いました。歴史家のタバリーは、彼の統治を「非常に優れており、毅然とした態度で帝国を統治したため、アルダシール3世が幼君であることに誰も気づかなかっただろう」と高く評価しています。

しかし、優秀な大宰相の下でも、サーサーン朝の状況は依然として厳しいものでした。ホスロー2世の治世中に台頭した様々な派閥が帝国の要所を支配し、中央集権体制は弱体化していました。アルダシール3世の即位時には、「パフラブ」（パルティア）派と「ペルシグ」（ペルシャ）派という主要な二つの派閥に加え、「ニムルズィ」と呼ばれる第三の派閥が存在し、それぞれが影響力を行使していました。629年になると、ニムルズィはアルダシール支持を取りやめ、将軍シャフルバラーズと共謀してアルダシール3世の打倒を計画し始めました。一方、パフラブ派はイスパフベダーン家のファッルフ・ホルミズドの指揮のもと、アルダシール3世の叔母であるボーラーンを擁立することを決定し、ボーラーンはアーモル、ニーシャープールなどのパフラブ地域で硬貨の鋳造を始めました。

シャフルバラーズは6,000人の軍勢を率いてクテシフォンに進軍し、包囲戦を展開しました。しかし、クテシフォンの攻略は容易ではなく、シャフルバラーズはカワード2世の治世下で大宰相を務めたペルシグ派の首領ペーローズ・ホスローと結びました。ペルシグ派とニムルズィ派の支援を受けたシャフルバラーズは、ついにクテシフォンを陥落させました。630年4月27日、シャフルバラーズはアルダシール3世を始め、マーフ・アードゥル・グシュナスプを含む多くの高級貴族を処刑し、自ら王位を簒奪しました。彼はミフラーン家出身の2人目の簒奪者となりました。後の民間伝承によれば、アルダシール3世はメシャンのどこかに埋葬されたと伝えられています。

硬貨

カワード2世と同様に、アルダシール3世も従来のサーサーン朝皇帝が用いた「シャーハンシャー」（諸王の王）の称号を硬貨に刻むことはありませんでした。これは、おそらくシャーハンシャーの称号を復活させたホスロー2世との違いを明確にするためだと考えられています。

アルダシール3世の短い治世は、サーサーン朝の衰退期における権力闘争と混乱を象徴しています。幼くして王位に就き、陰謀と裏切りの中で命を落とした彼の生涯は、サーサーン朝の黄昏を物語る悲劇的なエピソードとして、歴史に刻まれています。

参考文献

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