アレクサンドリアでの聖マルコの説教

『アレクサンドリアでの聖マルコの説教』：東西の文化が交錯する壮大な舞台

ジェンティーレ・ベッリーニとジョヴァンニ・ベッリーニによって描かれた油彩画『アレクサンドリアでの聖マルコの説教』は、1504年から1507年にかけて制作され、現在はミラノのブレラ美術館に所蔵されています。この作品は、ヴェネツィアのスクオーラ・グランデ・ディ・サン・マルコのために意図された巨大なカンヴァス画であり、その表面積は26㎡にも及びます。絵画は、聖マルコの生涯を描いた連作の一部を構成しており、その豊かな物語的、象徴的な要素は観る者を魅了します。

歴史的背景

この作品は、1504年7月にジェンティーレによって着手されましたが、1507年2月に彼が亡くなった時点で「大部分が完成」していました。その後、ジェンティーレの遺言に従い、弟のジョヴァンニがいくつかの修正を加え、作品を完成させました。兄の遺志を継いだジョヴァンニは、当初、この依頼に乗り気ではなかったようですが、遺言には、作品を完成させれば、ジェンティーレの貴重な素描のコレクションを譲り受けるという条項が含まれていたため、最終的に完成させたと考えられます。1507年3月7日、スクオーラは正式にジョヴァンニに作品の依頼を継続しました。

ジェンティーレが1479年から1480年にかけてコンスタンティノープルを旅行した際に得た異国情緒的な要素が、この作品には豊富に盛り込まれています。マムルーク建築の装飾的な要素は、ジェンティーレがエルサレムにも訪れた可能性を示唆しています。本作は、古代とジェンティーレの時代の2つの異なる時間、そしてアレクサンドリア、ヴェネツィア、背景の山岳風景という3つの異なる場所を巧みに組み合わせて描かれています。この広大な「歴史物語」の構図は、ジェンティーレによるものと考えられています。東方世界への旅行で得た建築様式は、マムルーク建築に酷似しており、画家の旅がコンスタンティノープルからエルサレムにまで及んでいた可能性を示唆しています。

作品のどの部分が兄弟のどちらによって制作されたかは明確ではありません。ヴァザーリは、初期の著書ではジェンティーレについてのみ言及し、後にその言及を削除しています。現代の見解では、ジェンティーレが背景と右側の人物群を描き、ジョヴァンニが左側の人物の肖像と中央の人物群の一部を描いたとされています。

作品の概要

本作は、都市の中心に設けられた巨大な舞台を描いています。舞台の背後には、3つの青いドームを持つ寺院、ミナレットのような塔、そして明るい色の家々が立ち並び、側面には赤いファサードと屋根のポーチを備えた建物が配置されています。舞台の前には、約100人もの人々が多様な服装で集まり、男性はカフタン、フロックコート、ターバンなどを着用し、女性は頭から足首までを覆うヴェールを身につけています。作品の構成において、ヴェネツィアの要素と東洋的な要素が巧みに組み合わされています。

描かれた都市景観は、東地中海地域の様々な建築様式を反映しており、その背景は影を帯びています。広場の中心にある巨大な建築物は、初期のビザンチン帝国の聖地の主要な特徴を模倣していると考えられます。

主題と解釈

この絵画は、1世紀にアレクサンドリアに住んでいた聖マルコが、イスラム教徒やヴェネツィアからの訪問者に向けて説教している場面を描いています。背景の建物は、ヴェネツィアのサン・マルコ寺院に似ていますが、装飾や彫像が省略されています。これは、アレクサンドリアの実際の景観を知る人が少なかったため、見る人が建物を見慣れたサン・マルコ寺院として認識することを意図したとされています。聖マルコの真上にあるオベリスクの象形文字は、古代エジプト人がキリスト教を予見していたという象徴的な意味を持っています。

ジェンティーレは、当時のヴェネツィア人とマムルークのエジプト人を描くことで、当時の情勢に言及し、イスラム教徒をキリスト教に再改宗させるという希望を表明しています。そして、聖マルコを規範として、アレクサンドリアを再改宗させることへの期待を明らかにしています。作品は、ヴェネツィアでもアレクサンドリアでもない、両都市の特徴を併せ持つ空想的な都市を描き、ヴェネツィア人とイスラム教徒が混ざり合う、代替の歴史として提示されています。

画家について

ジェンティーレ・ベッリーニ（1429-1507）は、ヴェネツィアで著名な芸術家一家に生まれ、当時非常に有名でした。父はヤコボ・ベッリーニ、弟はジョヴァンニ・ベッリーニです。ジェンティーレは才能ある画家でしたが、気難しい性格で、ベリーニ家の工房を経営していましたが、より熟練した弟のジョヴァンニの陰に隠れていました。彼は、公共の建物の表現と構成で特に知られ、油彩とカンヴァスの使用を始めた最初の画家の一人です。

ジョヴァンニ・ベッリーニ（1431/36-1516）もまた、ヴェネツィアの重要な芸術一家に生まれました。彼は、父の工房で働きながら、個人事業主として中小規模の敬虔な依頼作品に焦点を当てることで才能を示しました。兄のジェンティーレと共に働き、1479年からは定期的に総督の宮殿でヴェネツィアの歴史場面を描くようになりました。1507年に兄が亡くなった後、『アレクサンドリアでの聖マルコの説教』を完成させました。

参考文献

Stefano Zuffi, Grande atlante del Rinascimento, Electa, Milano 2007. ISBN 978-88-370-4898-3
AA.VV., Brera, guida alla pinacoteca, Electa, Milano 2004 ISBN 978-88-370-2835-0
* Mariolina Olivari, Giovanni Bellini, in AA.VV., Pittori del Rinascimento, Scala, Firenze 2007. ISBN 88-8117-099-X

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