アレッポの大モスク

アレッポ大モスク：シリアの至宝とその歴史

アレッポ大モスク、別名ウマイヤ・モスクは、シリアのアレッポ市街に位置する歴史的なモスクです。古代都市アレッポの世界遺産地区、アル＝ジャッルーム地区のアル＝マディーナ・スーク入口近くに建ち、シリア最大にして最古のモスクの一つとして知られています。洗礼者ヨハネの父ザカリアの遺骸が安置されているという伝承から、ジャミア・ザカリーエとも呼ばれています。

建造から内戦まで：歴史の軌跡

モスクの敷地は、かつてはヘレニズム時代の広場、その後はローマ支配下のキリスト教時代には聖ヘレナ大聖堂の庭でした。大聖堂の跡地を再利用して、715年、ウマイヤ朝のカリフ、アル＝ワリード1世によって建設が始まり、717年には弟のスライマーン1世によって完成したと伝えられています。しかし、建築史家の研究によると、実際にはウマイヤ朝地方州知事マスラマ・イブン・アブドゥルマリクが710年以前に建設に関わった可能性も指摘されています。

その後、11世紀後半にはミルダース朝がアレッポを支配し、中庭に泉亭を建設。1090年には、高さ45メートルにも及ぶミナレットが、シリア・セルジューク朝の時代に建造されました。

1169年の大火災で損傷を受けましたが、ザンギー朝のヌールッディーンによって修復・拡張。1260年のモンゴル軍の侵攻で再び破壊された後も、マムルーク朝時代に何度も修復・改築を重ね、現在の姿へと変貌を遂げました。2003年には中庭とミナレットの修復が行われましたが、2012年10月からのシリア内戦で深刻な被害を受け、2013年4月にはミナレットが破壊されてしまいました。政府軍と反政府勢力の戦闘の際に破壊されたとされており、その原因については両陣営で食い違う主張がなされています。反体制派は政府軍による攻撃と主張する一方、政府側は反政府勢力の仕業であると主張しています。ミナレットの破壊は、世界中から非難の声が上がりました。

建築様式：ダマスカス大モスクとの類似性

アレッポ大モスクは、ダマスカスの大モスクと多くの共通点を持っています。広大な大理石の中庭、ポルチコに囲まれた多柱式設計などがその例です。中庭は黒と白の石で複雑な幾何学模様を描いており、2つの屋根付きの清めの泉、祈りの演壇、日時計などが配置されています。

ミナレットは5層の構造で、ムカルナス型のコーニスが各層を区切っていました。洗練された石積みと精緻なレリーフ装飾が施され、その独特な様式は、地中海文明や古代北シリアの教会建築の影響を受けていると指摘されています。

内部は、中庭に面してハラーム（聖域）や複数の広間が配置されています。ハラームには、ザカリアの祠堂、15世紀のミンバル、精巧に彫られたミフラーブなど、貴重な遺物が収められています。また、マクスーラと呼ばれるドーム形の部屋には、ザカリアの遺骸を納めた墓が安置されています。モスク内には小さな博物館もあり、イスラム教関連の文書などが展示されていましたが、内戦によって多くの貴重な品々が略奪されました。

シリア内戦後のアレッポ大モスク

シリア内戦により甚大な被害を受けたアレッポ大モスクは、その歴史的・文化的価値を損なうことなく、未来へと受け継いでいくための努力が続けられています。現状では修復作業は進んでいませんが、世界遺産として、そしてシリアの歴史を語る上で重要な建造物として、その復元の必要性と将来への展望が広く認識されています。

参考文献

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