ワリード1世

ワリード1世：ウマイヤ朝の全盛期を築いたカリフ

ワリード1世（674年頃 - 715年）は、ウマイヤ朝の第6代カリフであり、その治世（705年 - 715年）は帝国の拡大と文化的な繁栄によって特徴づけられます。父であるアブドゥルマリクの政策を継承しつつ、独自の統治手腕を発揮しました。

生い立ちと初期の経歴

ワリードは、ウマイヤ朝の創始者ムアーウィヤの治世下の674年頃、マディーナでアブドゥルマリク・ブン・マルワーンの子として生まれました。ウマイヤ家は、ヒジャーズに居住するアブー・アル＝アースの家系に属していました。683年にアブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルがカリフを称し、ウマイヤ朝に対する反乱が勃発すると、ワリードの一族はシリアへ追放されました。しかし、祖父のマルワーン1世がシリアでカリフとして認められ、ウマイヤ朝の支配を回復させました。父のアブドゥルマリクは、マルワーン1世の後を継ぎ、イラク、ペルシア、アラビアを再征服し、中央集権化政策を実施しました。

696年から699年にかけて、ワリードはビザンツ帝国に対する軍事行動を指揮し、メッカに至る街道沿いに要塞を建設しました。

カリフとしての治世

705年、アブドゥルマリクの死後、ワリードはカリフの地位を継承しました。彼は父の政策を継承し、中央集権化、イスラーム的イデオロギーに基づく国家建設、領土拡大に尽力しました。ワリードは、ウマイヤ朝の東半分を治めるイラク総督のアル＝ハッジャージュ・ブン・ユースフに大きく依存し、その指導の下でマー・ワラー・アンナフルとシンドが征服されました。西方では、イフリーキヤ総督のムーサー・ブン・ヌサイルがマグリブ西部とヒスパニアを征服しました。ワリードは、これらの征服で得られた富を背景に、ダマスクスにウマイヤ・モスクを建設し、エルサレムのアル＝アクサー・モスクやマディーナの預言者のモスクなどの建築や拡張に資金を投じました。また、シリアのアラブ系イスラーム教徒の貧困層や障害者を支援する社会福祉事業にも取り組みました。

領土の拡大

ワリードの治世下で、ウマイヤ朝は領土を大きく拡大しました。東方では、クタイバ・ブン・ムスリムが中央アジアのマー・ワラー・アンナフルを征服し、ムハンマド・ブン・アル＝カーシムがシンド地方を征服しました。西方では、ターリク・ブン・ズィヤードがヒスパニアに侵攻し、ウマイヤ朝の支配を確立しました。

ビザンツ帝国方面

ワリードは異母弟のマスラマ・ブン・アブドゥルマリクをジャズィーラの総督に任命し、ビザンツ帝国に対する戦線の指揮を委ねました。708年頃には、長い包囲戦の末にビザンツ帝国のテュアナの要塞を占領して破壊しました。714年には、アラブ人がアンキュラを襲撃し、ビザンツ皇帝アナスタシオス2世はワリードとの停戦交渉を試みました。

地方の動向

ワリードは、シリアのほとんどの軍事区の統治を息子たちに委ねました。エジプトでは、ディーワーンでアラビア語が用いられるようになり、行政改革が進められました。ヒジャーズでは、ウマル・ブン・アブドゥルアズィーズが総督として、メッカとマディーナの宗教界と良好な関係を保ちました。

部族間抗争に対する均衡政策

ワリードは、軍事と行政においてヤマン族とカイス族の力を均衡させる政策を維持しました。これにより、対立関係を抑え込み、安定した統治を実現しました。

公共事業と社会福祉事業

ワリードは、征服活動で得られた財貨や税収を財源として、公共事業と社会福祉事業を推進しました。街道沿いに宿駅を建設し、井戸を掘り、都市に街灯を設置しました。また、灌漑用水路や運河を含む土地の開墾事業に投資し、農業生産性を向上させました。社会福祉事業には、貧困層への財政支援や障害者を支援するための介護者の提供などが含まれていました。

モスクの造営と後援活動

ワリードは、ダマスクスのウマイヤ・モスク、エルサレムのアル＝アクサー・モスク、マディーナの預言者のモスクなどの大規模なモスクの建設や拡張を後援しました。これらのモスクは、イスラームの政治的優位と道徳的威信の象徴となりました。

死と後継者

ワリードは、715年に病没し、弟のスライマーンが後を継ぎました。ワリードは息子のアブドゥルアズィーズを後継者に指名しようとしましたが、失敗に終わりました。

評価と遺産

ワリードの治世は、ウマイヤ朝の全盛期であり、領土の拡大、文化的な繁栄、公共事業の推進など、多くの功績を残しました。彼は、イスラーム世界の政治的・宗教的中心地を整備し、社会福祉を充実させることで、帝国の安定と繁栄に貢献しました。しかし、王族への多額な交付金や軍事費の支出は、後継者たちにとって大きな財政的負担となりました。

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