アンフィポリス

アンフィポリス：戦略の要衝、栄光の影、そして考古学の発見

ギリシャ北部のセレス県にあるアンフィポリスは、紀元前437年の建設以来、豊かな歴史を刻んできた都市です。ストリモナス川の東岸、戦略的に重要な台地上に築かれたアンフィポリスは、その地理的条件から古くから人々の居住地となり、紀元前3000年頃には既に集落が存在したと考えられています。

資源と勢力争いの舞台

豊かな資源を持つトラキア地方の中心地として、アンフィポリスはペルシアとアテナイの両勢力から熱い視線を注がれました。パンゲオ山脈からの金銀産出、造船に必要な木材の供給、スキタイからアテナイへの穀物輸送路という立地条件は、アンフィポリスを戦略的要衝として位置づけました。

ペルシアは紀元前513年にトラキアの鉱山を掌握し、アテナイは紀元前480年のペルシア戦争後、トラキア地方の支配権獲得を目指しました。アテナイによる植民地建設は何度か試みられましたが、トラキア人の抵抗に遭うなど、容易ではありませんでした。紀元前437年、ニキアスの子ハグノン率いるアテナイ人がアンフィポリスを建設し、ようやく本格的な支配が始まります。この時、ストリモナス川が町の周囲を囲むように流れていることから「アンフィポリス（町の周り）」と命名されました。地名については諸説ありますが、川の流れに由来するという説が有力です。

ペロポネソス戦争とブラシダスの活躍

ペロポネソス戦争においては、アテナイの重要な拠点であったアンフィポリスは、スパルタの将軍ブラシダスによって紀元前424年に奪取されます。ブラシダスは巧みな交渉術でトラキア人を味方につけ、無血で都市を掌握しました。この事件はアテナイの将軍トゥキディデスを追放する原因となり、その後アンフィポリスはペロポネソス戦争の重要な戦場となりました。紀元前422年のアンフィポリスの戦いでは、ブラシダスとアテナイの将軍クレオンが相討ちで戦死しました。ブラシダスはアンフィポリスで英雄として祀られることとなります。

マケドニア王国とローマ帝国の支配下

その後、アンフィポリスはマケドニア王国の支配下に入り、ピリッポス2世によって征服されました。アテナイとの密約を反故にしたピリッポス2世はアンフィポリスをマケドニア化し、自治権は一定程度認められながらも、マケドニアの制度や文化が導入されました。アンフィポリスはマケドニア王国の重要な海軍基地となり、アレクサンドロス3世（大王）の治世にも繁栄を続けました。

ローマ帝国時代には、エグナティア街道の宿駅として重要な役割を果たし、城壁やギムナジウムなどの遺跡が残されています。紀元前168年のピュドナの戦い後、マケドニアは分割され、アンフィポリスはメリデスの首都となりましたが、後にローマの属州マケドニアの一部となりました。

古代後期と衰退

古代後期、アンフィポリスは経済的な繁栄を続け、多くのキリスト教教会が建設されました。しかし、城壁外側の防御の脆弱さから人口は減少し、6世紀末のスラヴ人の侵略によって更に衰退の一途を辿ります。7世紀中ごろには、アクロポリスを中心とした要塞都市へと変貌し、8世紀頃には完全に放棄されたと見られています。

考古学による「再発見」

19世紀以降、アンフィポリスは考古学調査によってその歴史が徐々に明らかにされてきました。1970年代以降本格的な発掘調査が行われ、共同墓地や都市遺跡、バシリカなどの遺跡が発見されました。2014年からの発掘調査では、ギリシャ最大の規模を誇る「カスタの墓」が発見され、アレクサンドロス大王の盟友ヘファイエスティオンの墓である可能性が高いとされています。

アンフィポリスは、戦略的立地と歴史的出来事の舞台として、数々の栄光と苦難を経験した都市です。考古学調査は現在も進行中で、今後の発見が、アンフィポリスの歴史をさらに深く理解する上で重要な役割を果たすことでしょう。

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