アンブロシウス・アウレリアヌス

アンブロシウス・アウレリアヌス：ブリトン人の英雄、アーサー王のモデル？

アンブロシウス・アウレリアヌス（Ambrosius Aurelianus）は、5世紀頃、アングロ・サクソン人の侵略に対して抵抗したブリトン人の指導者として知られています。ウェールズ語ではエムリス・ウセディグ（Emrys Wledig）とも呼ばれ、ラテン語名Arthur（アーサー）が示すように、アーサー王伝説の原型となった人物の一人と考えられています。

史料におけるアンブロシウス・アウレリアヌス

アンブロシウス・アウレリアヌスは、『ブリタニア列王伝』や『ブリトン人の歴史』といった文献に登場します。『ブリトン人の歴史』では英雄として描かれ、後のアーサー王物語に影響を与えました。また、ギルダスの『ブリトン人の没落』では、5世紀の人物としては例外的に実名で記録されています。ギルダスによれば、アンブロシウスはサクソン人の攻撃を生き延びた人々を率い、軍隊を組織して侵略者に対抗しました。

指導者としての姿

史料から、アンブロシウスは卓越した軍事指導者であったことが伺えます。ギルダスは、彼が「神の助け」によって勝利したと記しており、アンブロシウスがキリスト教徒であった可能性を示唆しています。アンブロシウスの指揮下でブリトン人はサクソン人に対して勝利を収めたものの、その勝利は決定的なものではなく、その後も一進一退の攻防が続いたとされています。

アンブロシウスの出自を巡る議論

ギルダスの記述は、アンブロシウスの出自についても議論を呼んでいます。ギルダスはアンブロシウスの家族について「紫色の衣服を着用していた」と記述しており、これがローマ貴族の出身を示唆するのではないかという説があります。古代ローマでは、貴族が身分を証明するために紫色の帯を着用していたためです。また、「祖先」（avita）という言葉の意味を巡っても議論があります。「avita」が「祖父」を意味する場合、アンブロシウスはベイドン山の戦い以前の人物ということになり、年代的な解釈に幅が生じます。

伝説との関わり

『ブリトン人の歴史』には、「アンブロシウスの要塞」と呼ばれる伝説が登場します。この伝説には、アンブロシウスの他、ヴォーティガーンや2匹の竜が登場し、後の『ブリタニア列王史』にも収録されました。ジェフリー・オブ・モンマスは、アンブロシウスをコンスタンティヌス3世の息子とし、マーリンの伝説と結び付けました。

ヴォーティガーンとの対立

『ブリトン人の歴史』では、アンブロシウスとヴォーティガーンが対立関係にあることが描かれています。この対立は、国内の政治的派閥の対立を反映しているとする見解もあります。メイヤーは、ヴォーティガーンがペラギウス主義を代表し、アンブロシウスがカトリックを代表していたと仮説を立てました。また、『ブリトン人の歴史』におけるヴォーティガーンの子孫との対立は、ウェールズの支配者層との対立の残滓であるとする説もあります。

その他の文献における記述

ベーダ・ヴェネラビリスは『イングランド教会史』でギルダスのアンブロシウスに関する記述に言及しています。ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』では、アンブロシウスは「アウレリウス・アンブロシウス」という名で登場し、コーンウォール王コンスタンティンの息子とされています。ウェールズでは、アンブロシウスはエムリス・ウセディグとして知られています。

アッペルバウムは、ウィルトシャーのエイムスベリーにアンブロシウスの名前が残されていることを指摘し、エイムスベリーが5世紀後半においてアンブロシウスの権勢の支持基盤であったのではないかと推測しています。地名学の研究者も、ブリテンの各地でアンブロシウスの名前に由来する地名が使われていることを発見しています。これらの地名は、アンブロシウスの勢力範囲や活動領域を示唆しているのかもしれません。

アンブロシウス・アウレリアヌスは、史実と伝説が混ざり合った人物であり、その実像は未だ謎に包まれています。しかし、彼の残した足跡は、アーサー王伝説をはじめとする様々な物語に影響を与え、後世に語り継がれています。

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