イサベリーン

イサベリーンは、アイルランドで生まれたサラブレッドの競走馬です。競走馬としての成績は9戦1勝と目覚ましいものではありませんでしたが、その後の繁殖牝馬としての活躍は、日本の競馬史に大きな影響を与えました。

1953年、日本の競走馬資源の不足を解消するため、日本軽種馬協会がヨーロッパから19頭の繁殖牝馬を輸入しました。その中にイサベリーンも含まれており、青森県の盛田牧場へと送られました。盛田牧場代表の盛田寛二氏は、イサベリーンについて「思ったより安い馬が当たったのでガッカリしたが、ボワルセルの名血なので僅かに希望を持った」と語っています。この時、イサベリーンは英リーディングサイアーを獲得した名馬ボワルセルの仔を身ごもっていました。

翌年、イサベリーンは牡馬のヒカルメイジを出産。ヒカルメイジは1957年の東京優駿（日本ダービー）を制し、持込馬として初のダービー優勝馬となりました。さらに1956年には、父がトサミドリの牡馬コマツヒカリを出産。コマツヒカリも日本ダービーを制覇し、イサベリーンは史上2組目の兄弟ダービー馬の母となりました。

しかし、イサベリーンの繁殖生活は長くは続きませんでした。2番仔の牝馬は、映画の撮影中に事故で死亡。4番仔の牝馬も病死し、イサベリーン自身も子宮内膜炎を発症して繁殖能力を失ってしまいました。その後も交配が試みられましたが、受胎することはなく、1964年以降は交配を断念しました。1972年には繁殖登録を抹消され、功労馬として余生を過ごしました。

イサベリーン自身は牝系を繋ぐことはありませんでしたが、その血統はヒカルメイジを通じて多くの活躍馬に受け継がれました。ヒカルメイジは種牡馬として、数々の優秀な競走馬を輩出しました。イサベリーンの偉大な功績は、こうして日本の競馬界に長く影響を与え続けました。

1978年11月15日、イサベリーンは老衰のため34歳で亡くなりました。その寿命は、1995年にカネケヤキに抜かれるまで、日本のサラブレッド最長寿記録でした。イサベリーンの生涯を描いたドキュメンタリー映画『母馬物語』も制作され、その功績は広く知られることとなりました。

イサベリーンの父は1933年のセントジェームズパレスステークス優勝馬でした。母系は非常に優秀な血統で、祖母の全姉にはエプソムオークス優勝馬マイディア、母の従兄にはミドルパークステークスとチャンピオンステークスの優勝馬ピカルーン、曾祖母の半兄にはエプソムダービー優勝馬レンバーグといった名馬がいます。

イサベリーンは、競走馬としての華々しい活躍こそ少なかったものの、日本競馬界に大きな貢献を果たした繁殖牝馬でした。その生涯は、多くの競馬ファンに感動と記憶を残しています。短い競走生活、そして数少ないながらも大きな功績を残した繁殖生活、そして最長寿記録。イサベリーンは、多くのドラマを秘めた、まさに伝説的名牝と言えるでしょう。

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