イソフルラン

イソフルラン（Isoflurane）

イソフルランは、ハロゲン化エーテル系の吸入麻酔薬で、商品名は「フォーレン」として知られています。この薬剤は常温において不燃性の液体であり、その化学構造はエンフルランの異性体です。イソフルランは光学活性中心を一つ持つものの、光学分割が行われず、ラセミ体の形で使用されています。

薬理作用と使用

イソフルランは中枢神経の抑制や呼吸抑制、血圧低下、筋弛緩といった特性を持っていますが、痙攣を誘発する作用はありません。また、この薬剤は長期間使用しても肝臓や腎臓に有害な影響を及ぼさないため、肝疾患や腎疾患を抱える動物への投与も可能です。しかし、ヒトにおいては肝・胆道疾患や腎機能障害を持つ患者には慎重に使用する必要があります。

イソフルランは非常に強い脳保護作用を持っていることが特徴です。一方で、過去に悪性高熱を示した動物やそのリスクが高い動物への使用は禁止されています。吸入麻酔薬としてのカラーコードは紫色で、これは製品容器や専用の気化器に貼られた紫のラベルで示されています。

現在の使用状況

近年、イソフルランはセボフルランやデスフルラン、静脈注射麻酔薬のプロポフォールに取って代わられつつあるものの、獣医療の分野では依然として広く使用されています。通常、イソフルランは空気や純酸素と混合して使用され、亜酸化窒素と併用されることもあります。ハロタンに比べて効果が早く現れますが、呼吸器系への刺激があるため、その利点が相殺されることがあります。また、一般的に麻酔導入としてはチオペンタールやプロポフォールが用いられ、その後の維持にイソフルランが使用されます。

副作用とリスク

イソフルランには特定の副作用として、メトキシフルランによる腎障害やハロタンに関する肝障害が見られません。しかし、幼い動物の実験では、ケタミンと併用した場合に顕著な神経変性が発生する可能性が懸念されています。特にベンゾジアゼピンや亜酸化窒素との併用によって神経変性のリスクが高まることが知られています。

重大な副作用には、悪性高熱や呼吸抑制、ショック、アナフィラキシー、肝機能障害、心室頻拍、心室細動、完全房室ブロック、心停止などがあり、その頻度は様々です。また、0.1～5%未満の頻度で不整脈や血圧の変動、悪心、嘔吐、振戦、頭痛といった副作用も報告されています。

高齢者への影響

特に高齢者において、イソフルラン投与と術後認知機能障害（POCD）との関連性が注目されています。細胞レベルでの実験では、イソフルランに曝露されたヒトの培養細胞でアポトーシスが誘導され、アミロイドβの蓄積が確認されました。このことがPOCDの一因となる可能性が示唆されています。動物実験では、イソフルランを使用したアルツハイマーモデルマウスにおいてアミロイド病変の増加が確認されています。このため、今後もさらなる研究が期待されています。

作用機序

イソフルランの作用機序は未だ完全には解明されていませんが、痛みの感覚を抑制し、筋肉を弛緩させることが知られています。具体的には、GABAA受容体を活性化し、ニコチン性アセチルコリン受容体を抑制することによって作用します。また、NMDA型グルタミン酸受容体に対する作用は比較的小さいとされています。加えて、イソフルランは細胞膜の流動性を高めることでカルシウムATPアーゼを活性化し、エネルギーの合成を助ける働きがあります。

環境への影響

イソフルランは大気中での平均寿命が約3.2年であり、地球温暖化係数が510と高く、この点においても注意が必要です。年間の排出量が880トンを超えないよう管理されることが求められています。

まとめ

イソフルランは、その特性から獣医療などで広く使われていますが、高齢者への投与や神経系への影響に関しては慎重な前提が求められています。今後の研究により、麻酔の安全性向上が期待されます。

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