キース・ヴァン・ドンゲン

キース・ヴァン・ドンゲン（Kees Van Dongen、1877年1月26日 - 1968年5月28日）は、フォービズムの作風で知られるオランダ出身の画家です。エコール・ド・パリの重要な一員として、20世紀初頭の美術界に大きな足跡を残しました。

生い立ちと初期の活動

1877年、オランダのロッテルダム郊外で、酒醸造業を営む家庭に生まれました。家業を手伝う傍ら、ロッテルダムの美術アカデミー（後のウィレム・デ・クーニング美術学校）で絵画を学びました。この学校で、後に妻となるユリアナ・アウグスタ・プライティンガー（結婚後はグース・ヴァン・ドンゲンとして知られる）と出会いました。初期の作品は、ハーグ派や象徴主義の影響を受けていましたが、次第に独自のスタイルを模索し始めます。

1896年からは、日刊紙のイラストレーターとして働き始め、風刺的なイラストを制作しました。1899年にパリに移住し、風刺新聞や雑誌の挿絵画家として活躍する一方で、その風刺的な表現が軍や教会、資本家から告発を受けることもありました。1901年にはユリアナ・アウグスタと結婚。同年には息子が生まれるも数日後に亡くなり、1905年には娘のオーガスタ（ドリー）が誕生しています。

フォービズムへの傾倒と表現主義との関わり

1905年、サロン・ドートンヌに参加し、作風はフォービズムへと大きく変化しました。鮮やかな色彩と大胆な筆致を特徴とする彼の作品は、当時の美術界に大きな衝撃を与えました。彼はマティスやドランらとともにフォービズム運動を牽引し、その中心的な存在となりました。

1910年には、ミュンヘン新芸術家協会第二回展に招待され、作品を出品しました。また、ドイツ表現主義のグループ「ブリュッケ」にも所属し、表現主義の画家たちとも交流を深めました。

この頃、ピカソに誘われ、家族で「洗濯船」と呼ばれる集合アトリエ兼住宅に移り住みます。この場所は、多くの芸術家たちが集まる創造的な交流の場であり、ヴァン・ドンゲンの作品にも大きな影響を与えたと考えられています。

私生活と晩年

1914年の夏、妻と子供がロッテルダムに帰郷した際に第一次世界大戦が勃発し、1918年までパリに戻ることができませんでした。この間、ヴァン・ドンゲンはファッションデザイナーのJasmy Jacobsと交際を始め、1921年に妻と離婚しました。

1926年には、フランス政府からレジオンドヌール勲章を授与されました。その後も精力的に制作活動を続け、1968年にモナコで亡くなりました。

2022年には、日本で44年ぶりとなる個展がパナソニック汐留ミュージアムで開催され、改めてその作品の魅力が紹介されました。

主な作品

ヴァン・ドンゲンの作品は、鮮烈な色彩と奔放な筆致が特徴的で、独特の人物表現は見る者に強い印象を与えます。

「モンパルナス・ブルース」
「Woman with Cat（猫を抱く女、または黒猫を抱ける女）」（1908年） - ミルウォーキー美術館所蔵。竹久夢二や藤田嗣治も影響を受けたとされています。
「オレンジ色のサングラス」 - ヤマザキマザック美術館
「幼児の肖像」 - ヤマザキマザック美術館
「乗馬」 - ヤマザキマザック美術館
「アジサイとカラー」 - ヤマザキマザック美術館
「二人の裸婦と風船」（1905年頃） - メナード美術館
「道化師」（1905～06年頃） - メナード美術館
「赤いダンサー」（1907年） - エルミタージュ美術館
「黒い帽子をかぶった女性」（1908年） - エルミタージュ美術館
「フォリー・ベルジェールのダンサーニニ」 - 国立近代美術館 (フランス) (1909年)
「花を盛った水盤」（1917年） - パリ市立近代美術館
「ソファに座る女」（1930年頃） - モントリオール美術館

関連項目

モダーンズ：映画のオープニングやサントラ盤ジャケットに、「モンパルナス・ブルース」を模倣した絵が使用されています。

モデルとして描いた人物

ヴァン・ドンゲンは、多くの著名人をモデルとして描きました。その中には、以下のような人物が含まれます。

フェルナンド・オリヴィエ（ピカソの恋人）
ジャスミー・ジェイコブ（Jasmy JacobまたはLéa Alvin、キースの恋人）
イダ・ルビンシュタイン
ブリジット・バルドー
マダム・グレ
アルレッティ
サシャ・ギトリ
レオポルド3世（ベルギー王）
アンナ・ド・ノアイユ
モーリス・シュヴァリエ

キース・ヴァン・ドンゲンの作品は、その独特な色彩感覚と人物描写で、20世紀初頭の美術界に大きな影響を与え、現代においても多くの人々を魅了し続けています。

もう一度検索