インドにおけるイスラーム

インドにおけるイスラム教：歴史、現状、そして課題

本稿では、インドにおけるイスラム教とその信者であるムスリムの現状について、歴史的背景から現代社会における課題までを詳細に解説します。

イスラム教の伝播とインド仏教

7世紀、アラブ人貿易商の活動を通して、イスラム教はインド西部のマラバール海岸に最初に伝来しました。その後、イスラム勢力の浸透は徐々に広がりを見せ、12世紀には大規模な侵攻が発生。この出来事はインド仏教勢力の壊滅的な打撃となり、インドにおける仏教の衰退に繋がりました。

イスラム王朝時代

インドでは複数のイスラム王朝が興隆しました。1206年から1526年まで続いたデリー・スルターン朝は、奴隷王朝、ハルジー朝、トゥグルク朝、サイイド朝、ローディー朝と複数の王朝から構成され、北インドを支配しました。その後、1526年から1858年にかけては、トルコ系イスラム王朝であるムガル帝国が全土を統一しました。これらの王朝時代は、インドの政治、文化、社会に多大な影響を与えました。建築、芸術、行政制度など、様々な分野においてイスラム文化が深く根付いた時代と言えるでしょう。

現代インドにおけるイスラム教

2014年の時点で、インドのイスラム教徒人口は1億8000万人以上と推定されており、世界第3位の人口規模を誇ります。インドネシア、パキスタンに次ぐ規模です。これはヒンドゥー教に次ぐ大きな勢力ですが、インド全体人口約13億人の約13％に過ぎず、少数派であることに変わりありません。ムスリムが多数派である州はジャンムー・カシミール州のみです。ヒンドゥー教徒が人口の約80%を占める現状と比較すると、その人口比率における違いは明確です。南アジア全体では、インド、パキスタン、バングラデシュの3ヶ国で4億8000万人以上のムスリムが暮らしており、世界最大のイスラム教徒人口を抱える地域となっています。

イスラム主義とテロリズム

近年、インドではイスラム主義組織の活動が活発化しています。インド学生イスラーム運動やインディアン・ムジャーヒディーンなどの団体が活動し、パキスタンとの印パ戦争やカシミール紛争にも関与しています。ムンバイ列車爆破事件（2006年）、ムンバイ同時多発テロ（2008年）、ブッダガヤ爆弾テロ事件（2013年）など、多数のテロ事件が発生しており、社会不安の一因となっています。これらのテロ活動は、インド社会に深刻な影響を与え続けており、国家安全保障上の大きな課題となっています。

ムスリムへの迫害

インドでは、少数派であるムスリムが迫害を受けるケースが後を絶ちません。ヒンドゥー至上主義を掲げる民族義勇団などの集団が活動しており、一部政治家はイスラム教徒への憎悪を煽る発言を行うなど、社会問題となっています。2002年のグジャラート州での大規模なイスラム教徒殺害事件は、その象徴的な出来事であり、国際社会から強い批判を浴びました。この事件はインド政府の対応にも疑問が残るものであり、宗教対立の深刻さを浮き彫りにしました。また、1992年に暴徒化したヒンドゥー教徒によって破壊されたバーブリー・マスジドの跡地への寺院建設問題も、宗教対立の火種となっています。ヒンドゥー教徒側は、このマスジドがもともとヒンドゥー寺院だったと主張しており、宗教的、歴史的解釈の相違が大きな壁となっています。ヒンドゥー至上主義者の行動は、インドとパキスタンの関係のみならず、他のイスラム諸国との関係にも悪影響を与えていると言えるでしょう。2022年には、BJP報道官の発言がムスリム諸国から批判を招き、国際的な問題に発展しました。

結論

インドにおけるイスラム教は、複雑な歴史と現在進行形の課題を抱えています。宗教的多様性を尊重し、少数派の権利を保護するための取り組みが、インド社会の安定と国際社会との良好な関係を築く上で不可欠です。今後のインドの動向は、世界平和にも大きな影響を与えると考えられます。

もう一度検索