インドネシア共産党

[インドネシア]][[共産党]の歴史：誕生から壊滅、そしてその影響

インドネシア共産党（Partai Komunis Indonesia、PKI）は、インドネシアの歴史において、政治的にも社会的に無視できない存在でした。オランダ領東インド時代の1914年、中部ジャワで結成された東インド社会民主主義同盟（ISDV）を前身とし、1920年にインドネシア共産党として再編、1924年には名称が正式に変更されました。アジアにおける合法共産党としては中国共産党、日本共産党に先駆けて結成されたという歴史的意義も持ちます。

当初はオランダ人や欧亜混血児、華人を中心とした組織でしたが、次第にインドネシア人活動家の影響力が増大。スマウンやダルソノといったインドネシア人活動家が党幹部となり、労働運動などを展開して党勢を拡大しました。しかし1926年末から27年にかけて起こった武装蜂起は、計画性の欠如からオランダ政府に鎮圧され、PKIは壊滅的な打撃を受けました。

太平洋戦争終結後のインドネシア独立宣言後、PKIは1945年10月に再建されました。しかしオランダによる独立阻止への抵抗、そしてインドネシア共和国政府の外交路線をめぐる対立がPKIの活動に影を落とします。徹底抗戦を主張するPKIと、外交交渉による独立を目指す政府との対立は、タン・マラカやムソといった指導者たちの逮捕、殺害といった悲劇を生みました。中でも1948年のマディウン事件は、PKIに大きな打撃を与え、党組織を弱体化させました。

1950年代に入ると、アリミンによってPKIは再建され、その後、ディパ・ヌサンタラ・アイディットが党書記長に就任します。アイディットは従来の左翼的な路線から転換し、大衆路線を掲げて党勢拡大を図り、1955年の第1回総選挙では議席総数の16.4％を獲得、国内4大勢力の1つに躍り出ました。

スカルノ大統領による「指導される民主主義」体制下では、PKIは政府与党の一角を担うまでになりました。しかし、共産党の台頭を危惧する国軍との間には緊張関係が常に存在し、その緊張が頂点に達したのが1965年の9月30日事件です。

9月30日事件は、大統領親衛隊による国軍首脳の拉致・殺害という軍事クーデター未遂事件です。この事件を機に、スハルト将軍率いる陸軍が権力を掌握し、PKIは徹底的な弾圧を受けました。アイディットをはじめとする党幹部は処刑され、多くの党員やシンパが虐殺されました。この大虐殺は、東南アジアで最悪規模の虐殺の一つであり、犠牲者数は数万から200万人とも言われています。

9月30日事件によってPKIは完全に壊滅し、インドネシア国内では共産主義はタブーとなりました。スハルト政権下、そしてその後の民主化以降も、PKIは再建されていません。残党は存在したものの、かつての勢力は完全に失われました。事件後のソ連共産党第25回党大会でインドネシア共産党の代表は、毛沢東主義への批判と親ソ路線への転換を示唆しましたが、国内での影響力は既に失われていました。9月30日事件は、インドネシアの歴史に暗い影を落とし、PKIの悲劇は、国家と社会の大きな転換点となりました。

参考文献

増田与 『インドネシア現代史』、中央公論社、1971年
永積昭 『インドネシア民族意識の形成』、東京大学出版会〈歴史学選書〉、1980年
永井重信 『インドネシア現代政治史』、勁草書房、1986年
木村宏恒 『インドネシア 現代政治の構造』、三一書房、1989年
McVey, Ruth T., The Rise Of Indonesian Communism, Ithaca: Cornell University Press, 1965.
Mortimer, Rex, Indonesian Communist Party under Sukarno: Ideology and Politics, 1959-1965, Ithaca: Cornell University Press, 1974.
* Hindley, Donald, The Communist Party of Indonesia 1951-1963, Berkeley and Los Angels: University of California Press, 1964.

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