ウィリアム・ヘイスティングス (初代ヘイスティングス男爵)

ウィリアム・ヘイスティングス初代ヘイスティングス男爵：薔薇戦争を駆け抜けた生涯

ウィリアム・ヘイスティングス初代ヘイスティングス男爵(William Hastings, 1st Baron Hastings, KG, 1431年頃 - 1483年6月13日)は、15世紀イングランドを揺るがした薔薇戦争において、重要な役割を演じた貴族であり政治家でした。低い身分からヨーク朝エドワード4世への忠誠によって地位を築き上げ、権力の頂点に上り詰めたものの、その栄華は長く続かず、裏切りと陰謀によって悲劇的な最期を遂げます。本稿では、彼の人生と時代背景、そして謎に包まれた死の真相に迫ります。

ヨーク朝への忠誠と出世

ヨークシャー出身のジェントリ出身だったヘイスティングスは、卓越した能力とエドワード4世への揺るぎない忠誠心で頭角を現しました。ウォリックシャーとレスターシャーの州長官を務め、ランカスター朝との戦いで武功を挙げ、エドワード4世からの信頼を勝ち取ります。1461年には宮内長官に任命され、男爵位を授けられました。さらに、エドワード4世の妹マーガレット・オブ・ヨークとブルゴーニュ公シャルルの縁談を仲介するなど、王の側近として重要な役割を担うようになりました。

ウォリック伯の反乱とブルゴーニュ亡命

1470年、有力貴族ウォリック伯リチャード・ネヴィルの反乱により、エドワード4世は窮地に陥ります。しかし、ヘイスティングスは王を見捨てず、エドワード4世の弟であるグロスター公（後のリチャード3世）や義弟のリヴァーズ伯アンソニー・ウッドヴィルらと共にブルゴーニュへ亡命しました。翌年、エドワード4世がイングランドに帰還した際には同行し、バーネットの戦い、テュークスベリーの戦いにおいてはグロスター公と共に軍を指揮し、勝利に貢献します。その後もグロスター公の下でケントでの残敵掃討やカレー鎮撫に従事し、その手腕は高く評価されました。

ウッドヴィル家との対立と権力闘争

ヘイスティングスは優れた行政能力を持つ一方で、エドワード4世の放蕩仲間としての側面も持ち合わせていました。そのため、女性をめぐるトラブルや、リヴァーズ伯との確執など、派閥抗争の火種を抱えていました。特に、カレー副総督の任命を巡るリヴァーズ伯との争いは、彼らとヘイスティングス、さらにはバッキンガム公やスタンリー男爵といった旧来の貴族との間の対立を深め、王室内部の不穏な情勢を招きました。

エドワード4世の死とリチャード3世への接近

1483年4月、エドワード4世が急死すると、ヘイスティングスはウッドヴィル家と激しい権力闘争を繰り広げます。ウッドヴィル家が国庫と海軍を掌握し、諮問会議の主導権を握る中、ヘイスティングスはグロスター公とバッキンガム公に接近し、反撃に出ます。グロスター公の支援を受けてリヴァーズ伯とドーセット侯を逮捕し、一時的に優位に立ちます。グロスター公からは造幣局長官にも任命され、権勢を誇りました。

裏切りと処刑

しかし、グロスター公はヘイスティングスに十分な恩賞を与えず、ヘイスティングスはスタンリー男爵らと共にグロスター公への反感を募らせます。一方、グロスター公もバッキンガム公やハワード男爵ら親グロスター派を掌握し、政治的緊張は高まり続けました。1483年6月13日、ロンドン塔での諮問会議において、ヘイスティングスはグロスター公によって反逆罪で逮捕され、裁判も弁護も許されないまま、即座に処刑されました。その死の真相は不明な点が多く、様々な憶測が飛び交っています。

ヘイスティングスの遺産と謎

ヘイスティングスの逮捕・処刑は、リチャード3世による王位簒奪劇における重要な出来事でした。彼の死は、エドワード4世の旧臣たちへの警告であり、リチャード3世による権力掌握を確実にするための手段であったと推測されます。しかし、その理由については、いまだに多くの謎が残されています。ヘイスティングスが王妃やエドワード4世の愛人との関係、あるいはグロスター公への反対が、処刑の理由として挙げられていますが、確たる証拠はなく、歴史家の間でも議論が続いています。

家族とその後

ヘイスティングスはソールズベリー伯リチャード・ネヴィルの娘と結婚し、4人の息子と2人の娘をもうけました。彼の死後、彼の家族は様々な困難に直面することとなりますが、その詳細については、今後の研究が待たれます。

参考文献

尾野比左夫『バラ戦争の研究』近代文芸社、1992年
森護『英国王室史事典』大修館書店、1994年
石原孝哉『悪王リチャード三世の素顔』丸善プラネット、2013年
トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』彩流社、2014年

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