ウィーンの歴史

ウィーンの歴史：都市の変遷と文化

ウィーンは、その長い歴史の中で、様々な顔を見せてきました。古代ローマ帝国の軍事都市から、中世の交易拠点、そしてハプスブルク家の帝都として、ヨーロッパの中心的な役割を担ってきたのです。本稿では、ウィーンの歴史を紐解き、その変遷と文化について詳しく解説します。

古代：軍事都市ヴィンドボナ

ウィーンの起源は、ドナウ川沿いのケルト人の集落、ヴィンドボナに遡ります。紀元100年頃、ローマ帝国がこの地を征服し、軍事都市として整備しました。2世紀後半には、マルコマンニ族との戦いで荒廃しましたが、マルクス・アウレリウス帝によって再建され、戦略的に重要な拠点となりました。哲人皇帝として知られるマルクス・アウレリウスは、171年にヴィンドボナに入城し、この地で『自省録』を執筆、180年に没しました。

ヴィンドボナは、ローマ帝国の北辺を守る要塞都市として機能しましたが、帝国の衰退とともに、5世紀にはフン族やゲルマン民族の侵入によって破壊されました。しかし、都市の一部は残り、ホーアー・マルクトの地下からローマ帝国の司令官の館跡が発見されています。現在は、古代ローマ博物館として一般公開されており、中世に再興するウィーンの都市構造に影響を与えました。

中世：バーベンベルク家とプシェミスル家の統治

976年、神聖ローマ皇帝オットー2世は、ウィーンを含む地域をオストマルク辺境伯領としてバイエルンから独立させ、バーベンベルク家が辺境伯の地位に就きました。当初、彼らはメルクに居城を構えていましたが、中世に入ると、ドナウ川の水運を利用した交易が盛んになり、ウィーンは交易の要所として発展しました。11世紀末からの十字軍運動も、ウィーンの繁栄を後押ししました。

1155年頃、オーストリア辺境伯ハインリヒ2世がウィーンに居城を移し、1156年にはオーストリア公に昇格しました。レオポルト5世は、第3回十字軍からの帰路、イングランド王リチャード1世を捕らえ、身代金を得てウィーンの市壁を拡張しました。1221年には都市特権が認められ、都市としての地位を確立しました。

1246年にバーベンベルク家の男系が途絶えると、ボヘミア王オタカル2世がウィーンを掌握し、市民に自由を認め、支持を得ました。しかし、1273年にハプスブルク家のルドルフ1世が皇帝位に就き、1278年のマルヒフェルトの戦いでオタカル2世を破り、ウィーンはハプスブルク家の統治下に入りました。

ハプスブルク家の統治

当初、ハプスブルク家は弱小貴族であり、ウィーン市民からの反発も多くありましたが、商業都市としてのウィーンは発展を続けました。14世紀に入ると、ルドルフ4世のもとで、シュテファン大聖堂などの建造物が改修、建築され、ウィーン大学も設立されました。ペストの流行による一時的な停滞もありましたが、ウィーンはコスモポリタン的な性格を強め、多くのユダヤ人が生活するようになりました。15世紀にはユダヤ人迫害も起こりましたが、ハプスブルク家はユダヤ人の資本力や商業ネットワークを利用しようとしました。

15世紀半ばから、ハプスブルク家は神聖ローマ皇帝位を世襲するようになり、ウィーンはその中心都市となりました。しかし、ウィーン市民は必ずしもハプスブルク家に従順ではなく、1462年には蜂起して皇帝フリードリヒ3世を包囲する事件も起きました。1480年代にはハンガリー王マーチャーシュ1世に占領されましたが、1490年にマーチャーシュ1世が死去し、再びハプスブルク家の支配に戻りました。

近世：オスマン帝国の脅威と市壁増築

16世紀前半、ハプスブルク家は婚姻政策を通じて勢力を拡大し、皇帝カール5世のもとでキリスト教帝国の樹立を目指しましたが、宗教改革とオスマン帝国のドナウ川西進によって阻まれました。1529年、スレイマン1世率いるオスマン帝国軍がウィーンを包囲しましたが、市壁の堅固さと冬の到来により撤退しました。

その後、オスマン帝国の再襲に備え、市壁の強化が行われました。17世紀前半の三十年戦争では、ウィーンは戦場にならず大きな打撃を受けませんでしたが、17世紀後半にはペストの流行やハレー彗星の接近など、様々な危機に見舞われました。1683年には、カラ・ムスタファ・パシャ率いるオスマン帝国軍が再びウィーンを包囲しましたが、バイエルン、ザクセン、ポーランドなどの支援を得て撃退に成功しました。この第二次ウィーン包囲以降、ハプスブルク家はドナウ川を東進し、「ドナウ帝国」を形成していくことになります。

第2次ウィーン包囲後、旧市街の外側に新たな市壁（リーニエンヴァル）が建設され、貴族たちが宮殿を建設し、ウィーンの街を彩りました。この時代には、ベルヴェデーレ宮殿、シュヴァルツェンベルク宮殿、シェーンブルン宮殿など、バロック様式の宮殿が建てられました。また、富裕市民も豪華な邸宅を構え、芸術家たちがパトロンを求めてウィーンに集まり、芸術の街としての土台が築かれました。

近代：ウィーン体制と工業化の波

フランス革命とナポレオン戦争は、ヨーロッパ各地に自由主義とナショナリズムを広めました。1805年のアウステルリッツの戦いでハプスブルク家はナポレオンに屈服し、1809年にはナポレオンがウィーンに入城しました。しかし、ナポレオンは没落し、1814年からはウィーン会議が開催され、ウィーン体制が発足しました。この体制は保守反動的な性格が強く、自由主義やナショナリズムは抑圧されました。

18世紀後半からイギリスで始まった産業革命の波は、ウィーンにも押し寄せ、19世紀には交通網の整備が進められ、工場が建設され、労働者階級が形成されました。1848年には、二月革命をきっかけに、ウィーンでも三月革命が勃発し、ウィーン体制は崩壊しました。

ウィーン市街改造計画

中世から近世にかけての市壁は撤去され、パリの都市改造を模範に、ウィーンも近代都市へと生まれ変わることになりました。1858年より市壁の取り壊しが開始され、リングシュトラーセ（環状道路）が建設され、沿道に帝国議会議事堂、国立オペラ劇場、ウィーン楽友協会などが建てられました。1873年にはウィーン万国博覧会が開催され、近代都市ウィーンをアピールしました。オーストリア帝国各地からウィーンへの移住者が相次ぎ、郊外に集合住宅が建設され、コスモポリタン的な性格を強めました。

世紀末ウィーン

1861年から1895年までのウィーンはリベラルな時代と言われ、ユダヤ人に対する差別や制限が撤廃されました。しかし、1895年には反ユダヤ的なキリスト教社会党が市評議会で過半数を占め、カール・ルエーガーが市長に就任しました。ルエーガーは都市整備に尽力する一方で、反ユダヤ主義的な演説を行い、アドルフ・ヒトラーに影響を与えました。一方、テオドール・ヘルツルは、ドレフュス事件をきっかけにシオニズム運動を起こしました。

1914年6月28日、サラエヴォでフランツ・フェルディナント大公が暗殺され、第一次世界大戦が勃発しました。

現代：二度の世界大戦とアドルフ・ヒトラー

第一次世界大戦は、オーストリア・ハンガリー帝国の敗北によって終わり、ウィーンのハプスブルク家支配は終焉を迎えました。二重帝国は解体され、ウィーンは経済的困窮に追い込まれました。新生オーストリアの首都となったウィーンでは、社会民主党による市政が成立し、「赤いウィーン」と呼ばれました。ヒトラーは、多民族都市ウィーンを憎悪し、反ユダヤ主義に傾倒しました。

1938年、オーストリアはナチス・ドイツに併合され（アンシュルス）、ウィーンは約7世紀ぶりに首都の座を降りました。第二次世界大戦では、連合国軍の空襲を受け、大きな被害を受けました。1945年4月、赤軍によって占領され、元首相カール・レンナーがオーストリア臨時政府を樹立し、ドイツからの分離を宣言しました。

第二次大戦後のウィーン

第二次世界大戦後、ウィーンは米英仏ソ4ヶ国の共同占領下に置かれましたが、1955年に主権国家として独立を回復しました。オーストリアは永世中立国となり、ウィーンにはウィーン国際センターが建設され、第三の国連都市として発展しました。1989年のベルリンの壁崩壊とビロード革命は、ウィーンの地政学的な重要性をよみがえらせ、人口は再び増加傾向にあります。2004年には中東欧8ヶ国がEUに加盟し、ウィーンは中東欧経済の中枢拠点として発展を続けています。

ウィーンは、その長い歴史の中で、様々な文化と人々が交差し、独自の魅力を育んできました。これからも、ヨーロッパの中心都市として、その役割を果たしていくことでしょう。

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