ウェスパシアヌスとティトゥス神殿

ウェスパシアヌスとティトゥス神殿：フラウィウス朝の栄光を象徴する神殿

ウェスパシアヌスとティトゥス神殿は、古代ローマのフォロ・ロマーノ西端、サートゥルヌス神殿とコンコルディア神殿の間に位置する壮麗な神殿です。この神殿は、ウェスパシアヌス帝とその息子ティトゥス帝を神格化し、祀るために建設されました。フラウィウス朝の権威と繁栄を象徴する重要な建築物であり、その歴史と構造には多くの興味深い要素が含まれています。

フラウィウス朝の栄光を称える

古代ローマでは、記念碑を建設することで一族の名声と栄光を高め、その名を後世に伝えようとする風潮がありました。ウェスパシアヌス、ティトゥス、ドミティアヌスと続いたフラウィウス朝も例外ではありません。この神殿は、ウェスパシアヌス帝（在位69-79年）、ティトゥス帝（在位79-81年）、ドミティアヌス帝（在位81-96年）の権威を象徴するモニュメントとして建設されました。特に、ティトゥスとドミティアヌスの兄弟関係については歴史家の間で議論がありますが、ドミティアヌスが兄を神格化し、皇帝崇拝の対象としたのは、フラウィウス氏族の名を高めるためであったことは確かです。ウェスパシアヌスとティトゥスは、アポテオーシス（神格化）の儀式を経て神とされ、そのゲニウス（守護霊）はローマ市民によって神として崇拝されることになりました。当時の皇帝崇拝は一種の国教であり、皇帝への忠誠を示す政治的、外交的な意味合いも持っていました。

神殿の構造と特徴

神殿はコリント式オーダーで建てられ、前柱式構造の6柱式ポルティコを備えています。敷地の制約から、奥行き33メートル、幅22メートルと比較的狭い規模ですが、その美しさと壮大さは際立っています。神殿とコンコルディア神殿の間には、タブラリウムの壁を背にした2階建てのヴォールト構造の部屋があり、これはティトゥスに捧げられたものと考えられています。

神殿の歴史：建設から修復、そして中世の変遷

神殿の建設はティトゥス帝の治世、紀元79年に始まりました。当初、コンクリート製の土台部分と大理石製の祭壇の中核部分が完成しましたが、内装工事を完成させたのは、ティトゥスの死後、弟であるドミティアヌス帝でした。内陣の壁はトラバーチン製で、東方から取り寄せられた貴重な大理石で内張りされ、豪華な装飾が施されました。フリーズには、ローマ市内の様々なコッレギウム（組合）のシンボルやバッジが描かれ、当時の社会構造を反映していました。紀元200年から205年頃には、セプティミウス・セウェルス帝とその息子カラカラ帝によって修復が行われました。

中世以降の変遷

中世に入ると、神殿は大きな損傷を受けました。特に1300年頃（ボニファティウス8世の時代）とニコラウス5世の時代に行われたフォルムの改造の影響は大きく、フォルムに面した神殿の角が削り取られ、要塞の一部として改造されました。現在残っているのは、祭壇の中核部分（外装の一部）、内陣のトラバーチン製の壁の一部、神像を設置していた台座の一部、そしてポルティコの南東角に残る3本のコリント式円柱のみです。

このように、ウェスパシアヌスとティトゥス神殿は、フラウィウス朝の栄光を伝える重要な歴史的建造物であり、その変遷は古代ローマの歴史と文化を理解する上で欠かせない要素となっています。現代に残る遺跡はわずかですが、かつての壮大な姿を想像することができます。

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