ウェヌスとローマ神殿

ウェヌスとローマ神殿は、古代ローマにおいて最大級の規模を誇った神殿であり、フォロ・ロマーノの東端、コロッセオの近くに位置していました。この神殿は、女神ウェヌス・フェリクス（好意的なウェヌス）と女神ローマ（永遠のローマ）を祀るために、ローマ皇帝ハドリアヌスによって設計されました。

建設は121年に始まり、135年にハドリアヌスによって公式に公開されましたが、最終的な完成は141年、アントニヌス・ピウス帝の時代にずれ込みました。しかし、その後の307年に発生した火災によって大きな損傷を受け、マクセンティウス帝の時代に修復が行われ、その際に設計も一部変更されました。

歴史的背景

神殿が建設された場所は、かつてネロ帝のドムス・アウレアの敷地の一部であり、ネロの巨像も近くのアンフィテアトルム、後のコロッセオに移設されました。ハドリアヌス帝に仕えた建築家として名高いダマスカスのアポロドーロスは、この神殿に安置された女神像の大きさを批判し、「もし女神が立ち上がれば、頭が天井にぶつかるだろう」と述べたと言われています。この発言が原因で、アポロドーロスは後に追放され、処刑されたという逸話も残っています。

4世紀末には、テオドシウス1世に対立した皇帝エウゲニウスが、キリスト教以前の宗教や神殿を保護する政策の一環として、この神殿の修復を命じました。しかし、9世紀初頭の大地震によって再び損傷し、850年頃には教皇レオ4世によって、その廃墟にサンタ・マリア・ノヴァ教会が建設されました。この教会は1612年に大修復を受け、サンタ・フランチェスカ・ロマーナ教会として生まれ変わり、その際に旧女神ローマの内陣が鐘楼として組み込まれました。また、長年の間に、神殿を取り囲んでいた円柱は取り外され、現在ではわずかな円柱が残るのみで、そのほとんどはツゲの木に置き換えられています。

建築的特徴

神殿の基壇は長さ145m、幅100mに及び、その上のペリスタイル（周柱式）は長さ110m、幅53mでした。高さは29.5m、彫像を含めると31mにもなりました。神殿には二つの主要な内陣があり、それぞれに愛の女神ウェヌスとローマの女神ローマの座像が安置されていました。この二つの内陣は背中合わせに対称に配置され、西を向いたローマ像はフォロ・ロマーノを見渡し、東を向いたウェヌス像はコロッセオを見つめていました。各内陣の入り口には4本の柱が並ぶ四柱式ポルチコがあり、コロッセオ近くまで続くコロネードに繋がっていました。

神殿の短辺（東西）には10本、長辺（南北）には18本の白い円柱が立ち並び、各円柱の幅は1.8mと非常に印象的なものでした。1913年にドイツ人建築家ヨーゼフ・ビュールマンによって開始された神殿内部の復元図によると、中央の身廊は格間装飾が施されたヴォールト型の天井を持つ二つの通路に挟まれ、コリント式の円柱が並ぶコロネードによって構成されていました。柱の上には二重のエンタブラチュアがあり、その終端にはエクセドラ（半円形の空間）があり、格間装飾の半ドームがその上に載っていました。通路の背後の壁には台座があり、小さな円柱が差し込まれ、柱と柱の間には壁龕（へきがん）があり、小さな像が安置されていました。アーチ形と三角形のペディメントが交互に配置され、さらに小さな像が壁面の円柱エンタブラチュアの上に置かれていました。

ハドリアヌス帝は、ウェヌス（愛の女神）とローマ（都市）の関連性を巧妙に表現しています。ラテン語で「愛」を意味する"AMOR"を逆から綴ると"ROMA"になるという、言葉遊びのような仕掛けを神殿に組み込んだのです。ウェヌスの内陣には、新婚のカップルが生贄を捧げる祭壇があり、左右にはマルクス・アウレリウスとその妻小ファウスティナの大きな銀製の彫像が設置されていました。

ウェヌスとローマ神殿は、その壮大さと、建築的、歴史的意義において、ローマ帝国の偉大さを象徴する建造物の一つと言えるでしょう。

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