ウクライナの義勇兵大隊

ウクライナ義勇兵大隊：その発足と変遷

ウクライナ義勇兵大隊は、2014年春の分離主義の台頭に対応するため、ウクライナ正規軍の弱体化を補う形で組織された民兵・準軍事組織です。そのルーツは、2013年のユーロマイダン運動中に形成された「マイダン自衛隊」にまで遡ります。初期の義勇部隊は、ウクライナ紛争への対応として、後に軍、特別警察、準軍事組織へと正式に編成されました。

大半の部隊は、内務省や国防省の指揮下に入り（内務省の特殊任務巡回警察や国防省の領土防衛大隊など）、一部は独立して活動しました。当初、これらの大隊は政府からの資金援助を受けず、自己資金や寄付、クラウドファンディングで運営されていました。2014年9月には、37の義勇大隊がドンバス戦争に参加しています。戦闘員は、ユーロマイダン活動家から学生、軍人まで、多様な社会的背景を持っていました。

これらの義勇兵部隊は、ウクライナ社会で高い支持を得ていますが、オリガルヒとの関係から、政治化や私兵化のリスクも指摘されています。2015年には最前線から撤退を命じられ、その流れはほぼ終結しましたが、大半の部隊はウクライナ陸軍や国家親衛隊に統合され、存続しています。

義勇兵の編成：国防省と内務省

国防省

国防省は、2014年春以降、32の義勇兵大隊を創設しました。その中でも特に重要なのが、正式名称「領土防衛大隊」です。2014年末には自動車化歩兵大隊として再編されましたが、この概念は後に「領土防衛隊」として発展し、2021年に正式に組織されました。

国防省傘下の主な部隊には、以下のものがあります。

第56独立自動車化歩兵旅団
第57独立自動車化歩兵旅団
第58独立自動車化歩兵旅団
第59独立自動車化歩兵旅団
第3空中強襲大隊「フェニックス」（第79独立空中強襲旅団隷下）
第131独立偵察大隊（南部作戦管区司令部直属）
第46独立特務大隊「ドンバス・ウクライナ」（ドンバス大隊の志願兵により創設）

内務省

内務省のアルセン・アヴァコフ大臣によれば、2016年4月中旬までに、内務省傘下の義勇兵大隊（国家親衛隊を含む）の兵士205人が戦死しました。内務省は、56の特殊任務巡回警察部隊を設立しましたが、数回の再編を経て33部隊に縮小されました。

主な部隊は以下の通りです。

ドニプロ-1連隊
ハルキウ警察大隊
ポルタヴァ大隊
シチ大隊
Svyatyi Mykolai大隊

国家親衛隊

内務省に所属するウクライナ国家親衛隊は、複数の予備大隊を設立しました。その中には、ドンバス大隊やクルチツキー大隊など、義勇兵やマイダン活動家で構成された部隊も含まれています。

アゾフ大隊
ドンバス大隊

独立して活動する義勇兵大隊

一部の義勇兵大隊は、内務省や国防省の指揮下には属さず、独自に活動しました。

ウクライナ義勇軍団

右派セクターが編成した「ウクライナ義勇軍団」は、複数の大隊で構成されていました。2015年春にウクライナ陸軍や国家警備隊への統合が試みられ、2022年には第67独立機械化旅団としてウクライナ陸軍に編入されました。

OUN大隊

「ウクライナ民族主義者組織」（OUN）の大隊は、ドネツクのピスキー地域で活動していました。2019年9月に解散しました。

エアロロズヴィドカ

空中偵察とドローン戦を専門とするエアロロズヴィドカは、元々ITエンジニアやアマチュアが結成したグループで、後にウクライナ陸軍に統合されました。

ノマン・チェレビジハン大隊

クリミア・タタール人を中心に構成されたノマン・チェレビジハン大隊は、2016年に結成されましたが、戦闘に参加することなく同年に解散しました。

外国人戦闘員

ウクライナ紛争には、多くの外国人戦闘員も参加しました。研究者によると、2014年夏に多くの戦闘員が到着し、大部分は2015年中にウクライナを離れましたが、一部は定住しました。

2014年10月、ウクライナ議会は外国人戦闘員の軍への参加を許可しました。ポロシェンコ大統領は、市民権を約束しましたが、実際には2015年10月までに市民権を得たのはロシア出身の戦闘員1人のみでした。

ポーランド国際問題研究所の分析によると、2014年から2019年の間に約1万7241人の外国人戦闘員がウクライナで戦い、そのうち約3879人がウクライナ側で義勇兵として参加しました。最大はロシア人約3000人、次いでベラルーシ人約300人、ジョージア人約120人でした。その他、多くの国籍の戦闘員が参加しています。

その他の義勇兵大隊

ジョージア民族軍団

700人以上の兵士を擁するジョージア民族軍団は、ドンバス戦争とロシアのウクライナ侵攻でウクライナ側で戦っています。その目的は「ロシアの侵略に立ち向かう」ことです。

ジョハル・ドゥダエフ大隊

チェチェン人義勇兵で構成されるジョハル・ドゥダエフ大隊は、2014年3月に設立されました。大隊のメンバーは、この戦争をロシアの帝国主義に対する闘争の一環と見ています。

シェイク・マンスール大隊

シェイク・マンスール大隊もチェチェン人義勇兵で構成され、2014年の設立以来、ドンバス戦争に関与しています。当初はウクライナ政府の制裁を受けましたが、2022年のロシア侵攻後に再び活動を開始しました。

独立特殊任務大隊 (OBON)

チェチェン・イチケリア共和国国防省の独立特殊任務大隊は、ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団の一部として機能しています。

後継組織

戦術グループ「ベラルーシ」

ベラルーシ人義勇兵のグループで、ウクライナの義勇大隊の一部でした。

領土防衛隊

2022年には、領土防衛大隊がより正式な「領土防衛隊」に再編成され、地元の民間人の志願兵が地域防衛に参加しています。

ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団

2022年のロシア侵攻後、ウクライナ大統領は外国人義勇兵の参加を呼びかけ、「国際義勇軍」が結成されました。

自由ロシア軍団

ロシア軍の離反者や反体制派の義勇兵で構成される自由ロシア軍団も結成されています。

参考資料

Rosaria Puglisi, Heroes or Villains? Volunteer Battalions in Post-Maidan Ukraine // Istituto Affari Internazionali, March 2015
Margaret Klein, Briefing No. 27 .pdf Ukraine’s volunteer battalions – advantages and challenge // Swedish Defence Research Agency, April 2015
Ilmari Käihkö, A nation-in-the-making, in arms: control of force, strategy and the Ukrainian Volunteer Battalions, Defence Studies, Volume 18 Issue 2, 2018, pp. 147–166.
Ilmari Käihkö, The War Between People in Ukraine, The War on the Rocks, 21 March 2018

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