ウスタシュ4世 (ブローニュ伯)

ウスタシュ4世の生涯

ウスタシュ4世（Eustache IV, 1127年 - 1153年8月17日）は、中世フランスの有力貴族ブロワ家の出身で、ブローニュ伯の爵位を保持していました。彼はイングランド王スティーブンとブローニュ女伯マティルド・ド・ブローニュの長男として生まれ、弟にギヨーム1世（ウィリアム）、妹にマリーがいます。父スティーブンがヘンリー1世の死後にイングランド王位を継承すると、ウスタシュは王位継承者と目されるようになりますが、スティーブンよりも早くこの世を去りました。

王位継承とフランスとの関係

イングランドが内戦状態（無政府時代）に突入した1137年頃、ウスタシュは父の命によりフランス王ルイ7世に臣従し、翌年にはルイ7世の妹コンスタンスとの婚約を通じてフランスの支持を取り付けます。しかし、1151年に又従弟のノルマンディー公アンリ（後のヘンリー2世）がルイ7世に臣従し、ノルマンディー公位を認められると、ウスタシュはこれに対抗心を燃やしました。父スティーブンはウスタシュを共同統治者として戴冠させようとしましたが、カンタベリー大司教シオボルド・オブ・ベックの反対により、ローマ教皇やイングランド教会の協力を得られず、実現しませんでした。

ブローニュ伯継承と急死

母の死の前年にブローニュ伯位を継承していたウスタシュは、1153年1月、アンジュー伯位も継承したアンリがイングランドに上陸すると、父スティーブンの病気と母の死による気力減退の中、ベックや叔父のウィンチェスター司教ヘンリーの仲介によりアンリとの和睦が模索されます。しかし、ウスタシュはこれに反対し、ベックの領地を荒らし回ります。その直後、同年8月17日に急死しました。偶然にも同じ日、アンリの妻アリエノール・ダキテーヌが息子ギヨーム9世を出産しています。

ウスタシュの死は、スティーブンの和睦への傾きを決定的にし、ブローニュ伯位は弟ギヨームが継承しますが、イングランド王位はアンリが継承することで決着しました（ウォーリングフォード協定、ウィンチェスター協定）。ウスタシュの遺体は、父が建立に関わったケント・フェヴァーシャム修道院に両親と共に埋葬されています。

結婚と子孫

ウスタシュは1140年にフランス王ルイ6世の娘でルイ7世の妹であるコンスタンスと結婚しましたが、子供はいませんでした。コンスタンスは後にトゥールーズ伯レーモン5世と再婚しました。

ウスタシュ4世の歴史的意義

ウスタシュ4世の急死は、イングランドの無政府状態を終結させる大きな転換点となりました。彼が生きていれば、イングランドの歴史は大きく異なっていた可能性があります。その短い生涯は、当時の政治的駆け引きや貴族間の複雑な関係を如実に物語るものであり、中世イングランド史を研究する上で重要な人物の一人です。彼の死がなければ、プランタジネット朝の成立は大きく遅れていたかもしれません。

参考文献

石井美樹子『王妃エレアノール ふたつの国の王妃となった女』平凡社、1988年。
青山吉信編『世界歴史大系 イギリス史1 -先史～中世-』山川出版社、1991年。
レジーヌ・ペルヌー著、福本秀子訳『王妃アリエノール・ダキテーヌ』パピルス、1996年。
アンリ・ルゴエレル著、福本秀子訳『プランタジネット家の人びと』白水社（文庫クセジュ）、2000年。
朝治啓三・渡辺節夫・加藤玄編著『中世英仏関係史1066-1500 ノルマン征服から百年戦争終結まで』創元社、2012年。
君塚直隆『物語 イギリスの歴史（上） 古代ブリテン島からエリザベス1世まで』中央公論新社（中公新書）、2015年。

もう一度検索