ウルリケ・マインホフ

ウルリケ・マインホフ：ジャーナリストからテロリストへ至る波瀾万丈の人生

ウルリケ・マリー・マインホフ (1934年10月7日 - 1976年5月9日) は、西ドイツで活躍したジャーナリストであり、同時に過激派組織「ドイツ赤軍(RAF)」の主要メンバーとして知られる人物です。穏やかな家庭環境で育ち、知的な才能を開花させた彼女が、なぜ過激なテロリストへと転落していったのか、その生涯を辿りながら探ります。

平穏な幼少期から社会運動への参加へ

オルデンブルク出身のマインホフは、美術史研究家の両親のもと、姉と共に恵まれた環境で育ちました。しかし、幼少期に父親を亡くし、その後母親も癌で亡くすという不幸に見舞われます。社会主義者であった女性と同居するなど、幼少期から社会主義思想に触れる機会が多くありました。
マールブルク大学、ミュンスター大学と進学し、学生運動や核兵器反対運動に積極的に参加、その活動は次第に注目を集めます。1959年にはドイツ共産党に入党。左翼的な雑誌「コンクレート」でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、特に避妊薬や中絶といった問題を取り上げた記事は高い評価を得ました。同誌の編集長を務めた時期もあり、映画監督のミヒャエル・ハネケは彼女を「好感が持て、温かい心を持ったユーモアのある人物」と評しています。
1961年には結婚し、双子の女児をもうけましたが、1967年に離婚。その後、娘たちの親権は元夫が持つことになります。

過激思想への傾倒とドイツ赤軍への参加

ルディ・ドゥチュケ暗殺未遂事件やメディア王アクセル・シュプリンガーへの批判記事などをきっかけに、マインホフの思想は次第に過激化していきます。1970年、アンドレアス・バーダー、グドルン・エンスリンらと共に極左地下組織に参加、後に「ドイツ赤軍」と改称される「バーダー・マインホフ・グルッペ」を結成します。この組織は、数々の銀行強盗や爆弾テロを実行し、西ドイツ社会に大きな衝撃を与えました。
マインホフは、バーダーの脱獄を支援した後、ヨルダンのパレスチナ解放人民戦線のキャンプで軍事訓練を受け、RAFの理論的・思想的支柱として活動しました。反帝国主義を掲げ、1970年から1972年にかけて、RAFは多数のテロ事件を引き起こします。

逮捕と獄中死、そしてその後

1972年、マインホフは仲間と共に逮捕され、シュトゥットガルトのシュタムハイム刑務所に収監されました。1975年には、他のRAF幹部と共に裁判にかけられましたが、1976年に獄中で死亡。公式発表では自殺とされました。しかし、その死因については、権力による暗殺とする説も根強く残っています。
マインホフの死後も、RAFによるテロ活動は続き、他の主要メンバーも獄中死しました。彼らの死因も自殺と発表されましたが、その真偽については議論が続いています。マインホフの脳は、死後26年間もホルマリン漬けで保存されていましたが、2002年に娘の要請によって遺体と共に埋葬されました。

マインホフの死因と人格をめぐる議論

マインホフの死因については、いまだに様々な憶測が飛び交っています。公式発表は自殺ですが、シンパの中には権力による暗殺だと主張する者もいます。また、元夫や娘は、彼女が双子の妊娠後に脳腫瘍の手術を受けたことが、性格変化の一因になった可能性を示唆しています。しかし、手術を担当した医師は、手術は成功だったと主張しており、死因と人格変化に関する議論は、いまだに決着を見ていません。

マインホフを題材とした作品

マインホフの生涯は、多くの芸術作品にインスピレーションを与えました。ゲルハルト・リヒターの絵画「October 18, 1977」は、RAF主要メンバーの獄中死をテーマにした作品です。エルフリーデ・イェリネクの戯曲「ウルリーケ・マリア・スチュアート」は、マインホフとグドルン・エンスリンの関係を、メアリー・スチュアートとエリザベス1世になぞらえて描いたものです。映画「バーダー・マインホフ/理想の果てに」やドキュメンタリー映画「革命の子どもたち」など、数多くの映画やドキュメンタリーも制作されています。

まとめ

ウルリケ・マインホフは、複雑で謎多き人物です。ジャーナリストとして成功を収めた彼女が、なぜ過激派テロリストの道を選んだのか、その理由は未だに完全には解明されていません。彼女の生涯は、私たちに多くの疑問を投げかけ、現代社会における政治、イデオロギー、そして人間の心の闇について考えさせるものです。彼女の死後も、彼女の行動と思想をめぐる議論は、今なお世界中で続けられています。

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