エアフルト市電

エアフルト市電の概要と歴史

ドイツ中部に位置する都市、エアフルトの市内交通を支える路面電車は、正式名称を「シュタットバーン・エアフルト（Stadtbahn Erfurt）」といいます。その歴史は古く、1883年に運行を開始した馬車鉄道が前身であり、1世紀以上の長きにわたり市民の移動を担ってきました。現在は、シュタットウェルケ・エアフルト傘下のエアフルト交通会社（Erfurter Verkehrsbetriebe AG、略称SWE EVAG）が運行を担当しています。

黎明期から電化へ

エアフルト市における公共交通機関の導入が具体的に議論され始めたのは、都市を囲む城塞が撤去され、郊外への発展が始まった19世紀後半のことでした。1882年に軌間1,000 mmの馬車鉄道の建設が決定し、翌1883年 5月13日に最初の路線が開業。同年8月までには、赤、黄、緑の3つの色で区別された系統が設けられました。

開業から10年後の1893年、馬車鉄道はベルリンのユニオン電力会社（UEG）に売却されます。同社は石炭火力発電所を建設し、これを利用した路面電車への転換工事を進めました。そして、1894年 6月から8月にかけて電化が完了し、輸送力の大幅な増強が実現しました。

路線網の発展と戦災

電化後、エアフルト市電は急速に路線網を拡張し、1912年からは路線の複線化も進められました。第一次世界大戦中も大きな影響は受けませんでしたが、戦後のハイパーインフレーションは深刻な打撃を与えました。1920年以降、実質的にエアフルト市営となっていた路面電車は、一時2系統のみの運行に規模が縮小しました。しかし、休止区間の設備は維持され、1924年以降は順次、全系統の運行が再開されました。1929年のダイヤ改正では、系統名がこれまでの色から数字（1号線から4号線）に変更されています。

1930年代には全線の複線化が完了し、さらに路線網の拡大が進みました。1936年には新たに5号線が開業。車両面でも、同年からゴータ車両製造製の2軸車の導入が始まり、第二次世界大戦中の1944年まで多数の新造車両が投入されました。大戦中も1943年まで新規路線の建設や整備が行われましたが、1945年 4月11日、市内で発生した戦闘により全区間が運行休止に追い込まれました。運行が再開されたのは、終戦後の同年6月以降のことでした。

東ドイツ時代とシュタットバーン化への胎動

第二次世界大戦後、東ドイツの交通網の一部となったエアフルト市電では、片運転台車両の運用効率を高めるための終端部ループ線の整備が進められました。一方で、1970年代にはモータリゼーションの進展を受けて一部区間がバス路線に代替される動きも見られました。

しかし、1970年代から80年代にかけてエアフルト郊外に大規模な住宅地が相次いで建設されると、都心と郊外を結ぶ高速な公共交通機関の必要性が高まります。これに対応するため、市電の一部を道路から分離した専用軌道とし、直線区間を増やして高速運転を可能とする「急行トラム（Schnellstraßenbahn）」の整備が各方面で進められました。同時期には、中心部の路線の移設により道路交通の混雑緩和も図られています。1985年には新たな系統が開業し、以後エアフルト市電は6つの系統（1号線から6号線）で運行されるようになりました。

車両については、1950年代以降、東ドイツ製の2軸車が主力でしたが、1976年からはチェコスロバキア（現チェコ）のČKDタトラ製2車体連接車のKT4Dが順次導入され、1981年にはKT4Dによる3両編成の運用も開始されました。

ドイツ再統一後の近代化

1990年のドイツ再統一後、エアフルト市電の運営は、東ドイツ時代の人民公社から民営化されたエアフルト交通会社（Erfurter Verkehrsbetriebe AG）へと引き継がれました。同社は、東ドイツ時代から計画されていた郊外住宅地への延伸工事を1992年までに完了させました。続く1996年、エアフルト市議会は路面電車の高規格化計画、すなわち「シュタットバーン」化を承認しました。この計画に基づき、2000年から2007年にかけて、一度廃止された路線の一部復活を含む路線網の拡張や、既存路線の大部分の改修工事が集中的に実施されました。

車両面では、1994年以降、バリアフリーに対応した超低床電車の導入が継続的に行われています。長らく主力を担った高床式車両のタトラKT4Dは、2014年 10月に実施された架線電圧の昇圧（直流600 Vから直流750 Vへ）に伴い、定期営業運転から退役しました。

現在の運行系統と車両

2022年現在、エアフルト市電は以下の6系統を運行しており、最新のダイヤ改正は2021年4月23日に実施されています。

現在使用されている営業用車両は全て超低床電車（または部分超低床電車）です。主な形式は以下の通りです。

MGT6D・MGT6DE：デュワグ製の3車体連接車で、エアフルト市電にとって最初の超低床車両です。1994年から1998年にかけて、両運転台のMGT6Dが4両、片運転台のMGT6DEが12両導入され、2両編成での連結運転も行われます。
コンビーノ：シーメンスが製造した超低床電車で、「ベーシック」「アドバンス」「クラシック」といったバリエーションが導入されました。2002年から2012年にかけて長期にわたり増備され、片運転台の3車体連接車が24両、5車体連接車が36両在籍し、連結運転も実施されます。
* トラムリンク：シュタッドラー・レール製の超低床電車です。エアフルト市電向けには7車体連接車が14両導入される計画で、その購入費用には二酸化炭素排出量削減施策の一環として欧州地域開発基金やテューリンゲン州からの援助を受けています。2021年3月から納入が開始され、同年6月から営業運転に入っています。

これらの現役車両に加え、エアフルト市電ではタトラKT4Dを含む過去の車両が動態保存されており、貸切運転などでその姿を見ることができます。

エアフルト市電は、長い歴史の中で都市の発展とともに進化を続け、現代のエアフルトにおける基幹的な公共交通機関として機能しています。

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