エキソソーム複合体

エキソソーム複合体とは

エキソソーム複合体（Exosome Complex）は、真核生物および古細菌の細胞内に見られる、複数のタンパク質が集まってできた巨大な複合体です。主に細胞の核に存在しますが、真核細胞では核小体に特に多く、細胞質にも広く分布しています。その主要な働きは、細胞内の様々な種類のRNAを分解したり、転写後の修飾を行ったりすることにあります。細菌においては、「デグラドソーム」と呼ばれる複合体が、エキソソームと類似した機能と構造を担っています。

構造

エキソソーム複合体は、複数の構成要素から成り立っており、生物種によってその構成に違いが見られます。

中心部分
複合体の核となる部分は、6個のタンパク質がリング状に配置されて形成されています。古細菌ではRrp41とRrp42という2種類のタンパク質が3個ずつ組み合わさりますが、真核細胞ではRrp41やRrp42に似た構造を持つものの、それぞれ異なる6種類のタンパク質が1個ずつ集まります。
上部構造
この中心リングの上に、RNAと結合するS1ドメインを持つ3つのタンパク質が結合しています。これらのタンパク質は、分解対象となるRNAを複合体へと導く役割を担うと考えられています。真核細胞ではこれら3つ全てが異なるタンパク質ですが、古細菌ではそのうち2つが同じタンパク質です。
これらの構造は、RNase PHやPNPaseといった他のRNA分解酵素複合体と類似しており、進化的な共通祖先を持つ可能性が示唆されています。
付随タンパク質
真核細胞のエキソソームには、中心部分に加えて、いくつかのタンパク質がさらに結合することが一般的です。その中でも重要なのが、RNAを加水分解によって分解する酵素活性を持つタンパク質です。酵母ではRrp44やRrp6が、ヒトではDis3/Dis3L1やPM/Scl-100といったホモログ（相同タンパク質）が付随します。これらの付随タンパク質は、エキソソームの持つRNA分解活性の大部分を担い、存在する細胞内の場所（核や細胞質）によって付随するタンパク質が異なるため、分解するRNAの種類にも多様性が生まれます。
制御タンパク質
エキソソームの働きは、複合体と一時的に相互作用する多数の補助タンパク質によって精密に制御されています。これらのタンパク質は、複合体の活性を調整したり、特定のRNAへの基質特異性を付与したりします。例えば、細胞質ではmRNAの安定性に関わるタンパク質と、核ではrRNAやsnoRNA（小型核小体RNA）の成熟に必要なタンパク質と連携して機能します。

機能

エキソソーム複合体は、細胞におけるRNAの代謝と品質管理において中心的な役割を果たします。

酵素活性
エキソソームは、RNAを分解する複数の酵素（リボヌクレアーゼ）を含んでいます。主にRNAの3'末端からヌクレオチドを順次取り除く「3'-5'エキソリボヌクレアーゼ」として機能します。真核細胞では、RNA鎖の途中を切断する「エンドリボヌクレアーゼ」活性を持つ構成要素も存在します。分解様式には、無機リン酸を用いる加リン酸分解と、水を用いる加水分解があります。古細菌では中心リングのタンパク質が加リン酸分解活性を持つ一方、真核細胞の中心リングのタンパク質には活性がなく、付随するタンパク質が加水分解活性を担います。
多様なRNA基質
エキソソームは、メッセンジャーRNA（mRNA）、リボソームRNA（rRNA）、ノンコーディングRNA（ncRNA）など、非常に幅広い種類のRNAを基質とします。細胞質では、不要になったり欠陥があったりするmRNAの分解に関わることで、遺伝子発現の調節や品質管理に貢献します。核では、rRNAやsnoRNAが適切に機能するために必要な成熟プロセス（不要部分の除去など）に必須です。酵母で同定された、不安定なRNA分子であるCUTs（Cryptic unstable transcripts）の分解も重要な機能の一つです。
細胞における役割
エキソソームは、細胞の生存に不可欠な存在です。その機能を阻害すると、細胞の成長が停止し、最終的には死滅に至ります。これは、エキソソームがRNAの「品質管理システム」の中核を担っているためです。誤って転写されたRNAや、適切に修飾されなかったRNAなどが細胞内に蓄積するのを防ぎ、リボソームの組み立てやタンパク質合成といった生命活動の根幹に関わるプロセスが正常に行われるよう維持しています。

発見の経緯

エキソソーム複合体は、1997年に出芽酵母において、ある種のリボヌクレアーゼ複合体として初めて同定されました。その後、1999年には、ヒトで自己免疫疾患の抗原として以前から知られていた「PM/Scl複合体」が、このエキソソームと基本的に同じものであることが明らかになりました。PM/Scl複合体の研究を通じて、その詳細な構成タンパク質が特定されました。古細菌では、2001年以降のゲノム解析技術の進展により、存在が予測されるようになりました。

疾患との関連と応用

エキソソーム複合体は、直接的な疾患の原因となることは稀ですが、いくつかの疾患との関連が知られています。

自己免疫疾患
特定の自己免疫疾患、特に筋炎（多発筋炎、皮膚筋炎）と強皮症が合併した「筋炎/強皮症重複症候群（PM/Scl重複症候群）」の患者さんにおいて、エキソソーム複合体の構成タンパク質、特にPM/Scl-100やPM/Scl-75に対する自己抗体が検出されることが知られています。これらの自己抗体は、病気の診断における重要なマーカーとして利用されます。自己抗体の標的となるタンパク質は複数存在し、PM/Scl重複症候群の患者さんの多くで検出されます。自己抗体が複数の自己免疫疾患で確認されることがあるため、エキソソーム関連自己抗体を持つ患者さんの臨床症状は多岐にわたりますが、多くは関節炎、筋炎、強皮症などに典型的な症状を示します。
* がん治療への応用
一部のがん化学療法剤は、エキソソームの機能を阻害することで抗腫瘍効果を発揮すると考えられています。例えば、固形がん治療に広く用いられる抗がん剤であるフルオロウラシルは、エキソソームの働きを抑制する作用があるとされています。エキソソームによるrRNAの適切な修飾は細胞の生存に不可欠であるため、フルオロウラシルのこの作用が、細胞の生育に必要な機能に異常を引き起こし、抗がん効果につながると考えられています。

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