エドワード・ドミトリク

エドワード・ドミトリクは、1908年にカナダで生まれ、後にアメリカへ移住した映画監督です。彼のキャリアは、パラマウント映画でのメッセンジャーボーイとしてのアルバイトから始まりました。数学と物理学の才能を活かしてカリフォルニア工科大学に進学しましたが、映画への情熱を捨てきれず中退し、編集技師として映画界でのキャリアをスタートさせました。

1935年、短編西部劇『The Hawk』で監督デビューを果たした後、いくつかのB級映画を手掛けました。1942年にRKOに移籍し、プロパガンダ映画『ヒットラーズ・チルドレン/恐怖の殺人養成所』が低予算ながら大ヒットを記録し、一躍注目を集めました。この成功により、ドミトリクはフィルム・ノワールの先駆者としての地位を確立していきます。

1943年には、レイモンド・チャンドラーの小説を原作とした『ブロンドの殺人者』を制作し、その独特な画面構成でヨーロッパを中心に高い評価を得ました。この作品は、フィルム・ノワールの代表作の一つとして、映画史にその名を刻んでいます。

さらに1947年、リチャード・ブルックスの小説を原作とした『十字砲火』では、同性愛問題をユダヤ人問題に置き換えて描き、人種差別問題に鋭く切り込みました。この作品は、社会派映画としてのドミトリクの才能を示すとともに、アカデミー賞5部門にノミネートされるなど、高い評価を受けました。

しかし、マッカーシズムの嵐が吹き荒れる中、ドミトリクもその作風とウクライナ系の出自から下院非米活動委員会の標的にされました。彼は他の映画人と共に証言を拒否したためにハリウッド・ブラックリストに載せられ、イギリスでの活動を余儀なくされました。その後、アメリカに帰国し逮捕、服役しましたが、転向を表明し、委員会で証言したことでハリウッドに復帰しました。

復帰後は、スタンリー・クレイマーのもとで『8人の鉄人』や『ケイン号の叛乱』といった作品を手掛け、再び高い評価を得ました。その後も、スペンサー・トレイシー、エリザベス・テイラー、モンゴメリー・クリフト、マーロン・ブランド、ヘンリー・フォンダなど、数々の大スターを起用し、ワイドスクリーンを駆使した娯楽大作を制作しました。

また、教育者としての側面も持ち、1976年から1981年まで南カリフォルニア大学やテキサス大学オースティン校で映画学科の教授を務めました。

1999年7月1日、心不全と腎不全の合併症により、90歳でその生涯を閉じました。彼の作品は、映画史における重要な位置を占めており、後世の映画監督にも大きな影響を与えています。

主な監督作品

緊急待機命令 Emergency Squad (1940)
ヒットラーズ・チルドレン/恐怖の殺人養成所 Hitler's Children (1943)
夫は還らず Tender Comrade (1943)
ブロンドの殺人者 Murder, My Sweet (1944)
バターンを奪回せよ Back to Bataan (1945)
影を追う男 Cornered (1945)
時の終りまで Till the End of Time (1946)
許されざる女 So Well Remembered (1947)
十字砲火 Crossfire (1947)
コンクリートの中の男 Give Us This Day (1949)
カリブの反乱 Mutiny (1952)
狙撃者 The Sniper (1952)
8人の鉄人 Eight Iron Men (1952)
ケイン号の叛乱 The Caine Mutiny (1954)
折れた槍 Broken Lance (1954)
情事の終わり The End of the Affair (1954)
一攫千金を夢見る男 Soldier of Fortune (1955)
山The Mountain (1956)
愛情の花咲く樹 Raintree County (1957)
若き獅子たち The Young Lions (1958)
嘆きの天使 The Blue Angel (1959)
ワーロック Warlock (1959)
荒野を歩け Walk on the Wild Side (1962)
大いなる野望 The Carpetbaggers (1964)
愛よいずこへ Where Love Has Gone (1964)
蜃気楼 Mirage (1965)
アルバレス・ケリー Alvarez Kelly (1966)
アンツィオ大作戦 Anzio (1968)
シャラコ Shalako (1968)
青ひげ Bluebeard (1972)
* 狼たちの影 The 'Human' Factor (1975)

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