エルサルバドルの歴史

エルサルバドルの歴史は、メソアメリカ文明に端を発し、先住民の国々からスペインによる征服、独立、そして内戦を経て、現代の多党制共和国へと至る複雑な道のりを辿ってきました。

スペインによる植民地化以前

スペインがアメリカ大陸を植民地化する以前、現在のエルサルバドルにあたる地域には、ピピル人、レンカ族、マヤ族のチョルティ族といった先住民が居住していました。中部にはナワ族の一派であるピピル人が定住し、スペインの侵略に対して激しく抵抗しました。東部にはレンカ族が、北部にはマヤ系のチョルティ族が暮らしていました。これらの部族は、アステカやマヤ文明と類似した文化を持っていました。

考古学的調査によって、600年頃の住民の日常生活や住居に関する痕跡が、火山灰層の下から発見されています。

スペインによる征服

1524年、ペドロ・デ・アルバラード率いるスペイン軍はクスカトラン王国への侵攻を試みましたが、アトラカトル王とアトナル王子率いるピピル人の抵抗により撤退を余儀なくされました。しかし、アルバラードは翌1525年に再侵攻し、エルサルバドルを植民地化することに成功しました。こうして、エルサルバドルは王立メキシコ・アウディエンシアの支配下に入りました。

スペイン植民地時代

ペドロ・デ・アルバラードは、この地域をイエス・キリストにちなんで「エルサルバドル（救世主）」と名付けました。アルバラードは初代総督に任命され、1541年に亡くなるまでその地位にありました。一時的に王立パナマ・アウディエンシアの管轄下に入った時期もありましたが、多くの中央アメリカ地域は王立グアテマラ・アウディエンシアの管轄下にありました。

独立

19世紀初頭、ナポレオンによるスペイン占領をきっかけに、スペイン領アメリカ各地で独立運動が勃発しました。ヌエバ・エスパーニャ（現在のメキシコ）では1810年から1821年にかけて反乱が起こり、最終的に副王が敗北しました。この独立の動きはグアテマラ総督領など、各地に広がりました。1821年、エルサルバドルは他の中米諸国と共にスペインからの独立を宣言しました。

独立宣言後、ヌエバ・エスパーニャ議会は中米諸国が独立した法律と立法機関を持つ連邦を設立し、スペイン王フェルナンド7世を擁立しようとしましたが、フェルナンド7世はこれを拒否。その後、アグスティン・デ・イトゥルビデがヌエバ・エスパーニャ皇帝として擁立され、ヌエバ・エスパーニャはメキシコと改名されました。しかし、1823年にイトゥルビデが追放されると、メキシコ議会は中米の各総督領に自己決定を認めました。

1823年、マヌエル・ホセ・アルセ将軍の下で中央アメリカ諸州連合が成立しましたが、1838年に解体。エルサルバドルは独立共和国となりました。

1832年には、アナスタシオ・アキノが先住民を率いて、クリオーリョとメスティーソに対して反乱を起こしました。この反乱は、先住民への虐待や耕作地不足が原因であり、この問題は後のエルサルバドルにおいても政争の大きな要因となりました。

インディゴとコーヒー

エルサルバドルの地主エリート層は、当初インディゴの生産に依存していましたが、19世紀半ばに合成染料が普及すると、コーヒー生産へと転換しました。これにより、土地の価値は急騰し、地主エリート層は立法議会と大統領を支配し、浮浪法を制定して人々を土地から追い出し、コーヒーのプランテーション（フィンカス）を拡大しました。ヘクトル・リンド＝フエンテスは、このコーヒー産業の拡大が、20世紀のエルサルバドルを支配する寡頭支配層を生み出したと述べています。

寡頭支配

エルサルバドルの歴史は、少数の地主エリートによる寡頭支配に特徴付けられます。憲法は、地主の利益のために繰り返し改正され、地主は立法議会と経済を支配しました。大統領も地主エリート層から選出され、強大な権力を持っていました。この寡頭支配は、コーヒー産業によって強化され、経済発展の軸となりました。「ラス・カトルセ家族」と呼ばれる14の家族が、エルサルバドルの土地と財産の大半を支配していました。1970年代以降、農業は衰退しましたが、金融業が発展し、財産は少数の手に集中したままとなりました。

軍事独裁時期

1931年、マクシミリアーノ・エルナンデス・マルティネス将軍によるクーデターから、1944年まで、農村部での抵抗は暴力的に弾圧されました。1932年のエルサルバドル農民反乱では、政府による「ラ・マタンサ（殺戮）」によって、多くの先住民や政敵が殺害されました。マルティネス政権以降、1980年まで、エルサルバドル大統領は軍人が占めており、選挙は不自由なものでした。1930年代から1970年代にかけて、専制政府は政治弾圧を行い、改革を制限して権力を維持しました。軍事独裁は、1979年のカルロス・フンベルト・ロメロ大統領の失脚によって終結しました。

内戦期

1979年、エルサルバドル革命政府フンタが権力を掌握すると、極右と極左勢力が対立し、政治暴力が内戦へと発展しました。エルサルバドル軍は大量虐殺を行い、米国は政府を支援し、キューバなどの共産主義国は反乱軍を支援しました。1992年、チャプルテペク平和協定により内戦が終結し、民族解放戦線は主要な政党の一つとなりました。平和協定に基づき、軍部の人員削減や文民統制が行われ、元ゲリラや兵士には土地が分配されました。

内戦終結以降

内戦終結後、民族解放戦線は政党として活動しましたが、大統領選挙では民族主義共和同盟の候補が選出されました。また、新自由主義的な政策が導入され、国営企業の民営化などが進められました。2004年の大統領選挙では、民族主義共和同盟のアントニオ・サカが大統領に就任し、アナ・ビルマ・デ・エスコバルが初の女性副大統領となりました。平和協定後、恩赦が議決されたため、内戦中の犯罪は裁かれることなく、また、エルサルバドルに帰国したアメリカ不法滞在者が犯罪に関与し、社会問題を引き起こしました。2009年、民族解放戦線のマウリシオ・フネスが当選し、エルサルバドル初の左翼政党出身の大統領となりました。

通史

エルサルバドルの歴史は、先住民の文明から始まり、スペインによる植民地化、独立、そして内戦を経て、現代の多党制共和国へと至る複雑な道のりを辿ってきました。農業経済、寡頭支配、軍事独裁、内戦という困難な時代を経て、現在のエルサルバドルは、社会経済的な課題に取り組みながら、民主的な発展を目指しています。

参考文献

Spanish Colonization（英語）
El Salvador Early Inhabitants（英語）

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