スペインによるアメリカ大陸の植民地化

スペインによるアメリカ大陸の植民地化

15世紀から17世紀にかけて、スペインは新大陸アメリカにおいて大規模な征服と植民地化を展開しました。この過程は、コロンブスの航海に始まり、カリブ海、中南米、北米へと拡大し、先住民社会に甚大な影響を与え、現代にも続く社会構造を形成しました。

コロンブスの航海とカリブ海の征服

1492年、クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸に到達すると、スペインは新大陸での機会を模索しました。1494年のトルデシリャス条約により、スペインは新大陸における征服の優先権を獲得し、コンキスタドール（征服者）による先住民への支配が始まりました。この条約が、スペインの征服活動を特徴づけることになりました。

大アンティル諸島

最初に征服されたのは、カリブ海の大アンティル諸島です。タイノ族やカリブ族といった先住民族が暮らしていましたが、スペイン人による支配が始まると、鉱山やプランテーションでの重労働、ヨーロッパからもたらされた疫病により、彼らの多くが命を落としました。1496年にはサント・ドミンゴが建設され、アメリカ大陸初のヨーロッパ人による都市となりました。プエルトリコ、ハマイカ、キューバも次々と征服され、先住民の抵抗は無残にも鎮圧されました。

ベネズエラ

コロンブスは1498年に現在のベネズエラに到達し、その後アメリゴ・ヴェスプッチがこの地を新しい大陸と認識しました。この発見が「アメリカ」という名前の由来となりました。

パナマ

パナマ地峡も16世紀初頭に探検され、1513年にはバルボアによって太平洋が「発見」されました。パナマには総督府が置かれ、シウダー・デ・パナマが建設されました。

メキシコと中央アメリカの征服

1517年、ユカタン半島でマヤ文明が発見され、翌年にはアステカ文明も発見されました。

アステカ文明

エルナン・コルテスは、1519年にアステカ文明の征服を開始し、1521年には首都テノチティトランを陥落させ、アステカ帝国を滅ぼしました。征服されたテノチティトランの跡にはメキシコ市が建設され、ヌエバ・エスパーニャ副王領の中心となりました。

マヤ文明

中央アメリカでは、アルバラードがグアテマラのマヤ系諸王国を征服し、エルサルバドルも征服しました。1527年にはユカタン半島の征服が始まり、1697年にマヤ文明の全域がスペインに併合されました。

北アメリカの征服

北アメリカの征服は、1513年にポンセ・デ・レオンがフロリダ半島を探検したことから始まりました。

北米探検隊

ナルバエス遠征隊やデ・ソト遠征隊、コロナド遠征隊などによって、北アメリカの各地が探検されましたが、黄金を発見するという目的は達成されませんでした。

南アメリカの征服

南アメリカでは、インカ帝国が繁栄していましたが、ヨーロッパからの疫病によって衰退し、内戦状態となっていました。

ベネズエラ

1523年にクマナが建設され、ベネズエラの征服が始まりましたが、先住民の抵抗により遅れました。

コロンビア

コロンビアでは、1510年にサンタ・マリア・ラ・アンティグア・デル・ダリエンが建設され、南米初の恒久的な植民都市となりました。その後、カルタヘナ・デ・インディアスやサンタフェ・デ・ボゴタが建設され、ムイスカ人の王国が征服されました。

インカ帝国

ピサロは1531年にインカ帝国の征服を開始し、1532年のカハマルカの戦いでインカ帝国軍を打ち破り、皇帝アタワルパを捕らえ処刑しました。1535年にはリマが建設され、ペルー副王領の首都となりました。しかし、インカの抵抗は続き、内戦も発生しました。最終的に1572年、最後のインカ皇帝トゥパク・アマルーが処刑され、インカ帝国は滅亡しました。

チリとラ・プラタ地方

チリは1540年にバルディビアによって探検され、サンティアゴ・デ・チレが建設されましたが、マプーチェ族の抵抗により征服は難航しました。ラ・プラタ地方（アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ）では、1536年にブエノスアイレスが建設されましたが、先住民の攻撃により一時放棄されました。その後、アスンシオンを中心に開発が進められました。

後世に及ぼした影響

スペインによる植民地支配は、中南米社会に大きな変化をもたらしました。白人優位の社会構造が形成され、先住民、メスティーソ、黒人といった社会階層が生まれました。また、ヨーロッパとアメリカ大陸の間で様々な文化や動植物の交流が起こりました。しかし、植民地では先住民の強制労働や搾取が横行し、経済的従属と周辺化が進みました。

エンコミエンダ・コレヒドール・ミタ

植民地支配の制度として、エンコミエンダ制、コレヒドール制、ミタ制が整備されました。ミタ制により、インディオは強制労働を強いられ、多くが死亡しました。ポトシ鉱山での銀の採掘は、スペインの経済を潤しましたが、同時に西ヨーロッパ諸国の資本の本源的蓄積を促しました。

改宗

カトリックの布教が強制的に進められ、先住民の信仰は破壊されました。一方で、イエズス会による布教村落では、インディオの保護が進められました。

黒い伝説

スペインによる新大陸征服は、「黒い伝説」として否定的に伝えられることもあります。コンキスタドールによる先住民の虐殺や搾取、文化破壊が批判され、スペインの植民地支配は大きな負の遺産を残しました。

参考文献

増田義郎（編）『新版世界各国史26 ラテンアメリカ史II』山川出版社 2000年
エドゥアルド・ガレアーノ（著）、大久保 光夫（訳）『収奪された大地 ラテンアメリカ五百年』新評論 1971,1986

関連文献

網野徹哉『インカとスペイン 帝国の交錯』講談社〈講談社学術文庫〉、2018年。
ルイス・ハンケ 著、佐々木昭夫 訳『アリストテレスとアメリカ・インディアン』岩波書店〈岩波新書〉、1974年。
バルトロメ・デ・ラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』染田秀藤訳、岩波書店〈岩波文庫〉、1976年。
バルトロメ・デ・ラス・カサス 著、石原保徳 編『インディアス史（七）』長南実訳、岩波書店〈岩波文庫〉、2009年3月17日。
アーヴィング・ラウス 著、杉野目康子訳 訳『タイノ人―コロンブスが出会ったカリブの民』法政大学出版局〈叢書ウニベルシタス〉、2004年。

関連項目

大航海時代
レコンキスタ
奴隷貿易
ラテンアメリカ
コンキスタドール

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