道 (行政区画)

「道」とは：東アジアにおける行政区画の変遷

「道（どう）」は、中国に起源を持つ行政区画の一つで、日本、朝鮮、ベトナムといった東アジアの国々で用いられてきました。多くの場合、最上位の一級行政区画として位置づけられますが、国や時代によっては異なる場合もあります。現在でも「道」を行政区画として使用しているのは、日本と朝鮮半島です。

英語では「circuit」と訳されることがありますが、これは本来、欧米における巡回裁判所の管轄区域や宣教師の巡回教区を指す言葉です。現代では、日本の北海道は「(Hokkaido) prefecture」、朝鮮の道は「province」と訳されることが一般的です。

中国における「道」

唐代の十道

唐の時代、太宗は627年に全国を十道に分けました。これは、隋末唐初の混乱期に設置された軍政機関や行政機関を整理・再編する過程で生まれたものです。当初は、関内道、河北道、河南道、河東道、隴右道、淮南道、山南道、江南道、剣南道、嶺南道の十道に分かれましたが、設置完了までには数年を要しました。これらの道は、中央政府の指示を地方に伝える役割を果たしましたが、道自体が軍事・行政機関を持つわけではなく、都督府や州を通じて地方を統括する体制でした。

玄宗の時代には、733年に十五道に再編されました。この時に初めて、採訪使という長官が設置され、中央直轄の州と都督府管轄の州を統括する権限を持つようになりましたが、都督府が管轄する州はそのまま残されました。この体制が、後の藩鎮体制において地方の節度使が中央政府に対抗する政治的基盤となる一因となりました。

清・中華民国

清朝と中華民国初期には、一級行政区画である省の下に「道」が置かれました。これにより、行政の階層構造がより複雑になりました。

日本における「道」

令制以前

『日本書紀』には、律令制以前に四道将軍という存在が記述されており、この四道が律令制以前の地域区分であったとする説があります。前田晴人氏はこの説を支持し、四道将軍の神話は、その地域区分を説明するために創作されたものだと考えています。

律令制下の五畿七道

律令制下では、全国は五畿七道に分けられました。五畿は、都のある地域であり、どの道にも属しませんでした。道の下には国が置かれ、五畿と合わせて68国がありました。しかし、西海道を除いて、道の行政機関が置かれることはなく、名目的な行政区画に過ぎませんでした。例外として、7世紀から12世紀頃の西海道には大宰府が道の行政機関として機能していました。

明治維新後の北海道

明治政府は1869年に北海道を加え、五畿八道としましたが、他の地域は道として再編されませんでした。1871年の廃藩置県後、五畿八道は徐々に廃れていきました。現在、行政区分として「道」が存在するのは北海道のみです。

北海道は、函館県、札幌県、根室県の3県を経て、1886年に北海道庁が設置されました。しかし、「北海道」はあくまで地域名であり、行政区画としては「庁」が置かれていました。1947年に地方自治法が施行され、北海道庁は廃止され、以降は「道」として他の都府県と同等の扱いとなっています。

現在、日本の行政区画は1都1道2府43県の「47都道府県」で構成されており、北海道は唯一の道であるため、現代日本では単に「道」と言えば北海道を意味することが一般的です。

朝鮮における「道」

高麗時代の十道・五道両界

高麗は唐の制度に倣い、995年に十道を設置しましたが、1018年には五道両界に再編されました。五道には按察使が、両界には兵馬使が長官として派遣されました。

李氏朝鮮の八道・十三道

李氏朝鮮時代には、全国を8道に分け、これを「朝鮮八道」または「鶏林八道」と呼びました。その長官は観察使でした。1895年には一時的に二十三府に再編されましたが、翌年には十三道に再編されました。

十三道制は日本統治時代にも引き継がれました。道の長官は道知事であり、他の府県知事と同等の権限を持ち、独任制でした。道知事は道内の行政を管理し、道令を発することができました。また、道知事を補佐する機関として参与官や道評議会が設置されました。

第二次世界大戦後

第二次世界大戦後、朝鮮半島は南北に分断され、いくつかの道が分割されました。韓国では、全羅南道から済州道が分割され、北朝鮮では、黄海道が黄海北道と黄海南道に、咸鏡南道から両江道が分割されるなど、再編が繰り返されました。現在では、道に加えて特別市や広域市、特別自治道など多様な行政区画が存在しています。

ベトナムにおける「道」

ベトナムでは、丁朝や前黎朝の時代に道があったとされるものの、詳細は不明です。李朝や陳朝では「路」が最上級行政単位となり、黎朝時代には当初5道承宣が置かれ、後に13道に再編されました。しかし、阮朝時代には道が廃止され、鎮や営が設置されました。

訳語としての「道」

帝政ローマ後期の最上位の行政区画である「praefectura praetorio」を「道」と訳すことがあります。

まとめ

「道」は、東アジアにおいて長い歴史を持つ行政区画であり、その形態や役割は時代や国によって大きく変化してきました。中国から始まり、日本、朝鮮、ベトナムへと広まった「道」は、それぞれの国で独自の発展を遂げ、現代にもその名残を残しています。特に、日本における北海道や朝鮮半島における道の存在は、それぞれの地域の歴史と文化を色濃く反映していると言えるでしょう。

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