オーガスト・ベルモント

オーガスト・ベルモント（August Belmont, 1813年12月8日 - 1890年11月24日）は、ドイツ系アメリカ人の金融家、外交官、政治家であり、民主党全国委員会委員長、さらには競走馬のオーナーブリーダーとしても知られています。アメリカ競馬のクラシック三冠レースの一つ、ベルモントステークスの名前の由来となった人物としても広く知られています。

生い立ち

1813年、オーガスト・ベルモントはドイツのアルツァイでユダヤ人家庭に誕生しました。当時、アルツァイはフランス帝国の一部でした。両親は父サイモン・ベルモントと母フレデリカ・エルサスであり、一家はセファルディムの血筋で、そのルーツはポルトガルのベルモンテにまで遡ります。7歳で母親を亡くした後、彼は叔父と祖母と共にドイツの金融中心地フランクフルトに移り住みました。

フランクフルトのユダヤ人学校フィラントロピンで学んだベルモントは、英語、算数、文章を学ぶ傍ら、雑用をこなしていました。その後、フランクフルトのロスチャイルド銀行に見習いとして入社、1832年には書記官に昇進し、ナポリ、パリ、ローマなどへも出張しました。

アメリカでの活躍

1837年、24歳になったベルモントは、ロスチャイルド家のキューバにおける利益を守るため、当時スペイン領だったキューバのハバナへ向かうことになりました。しかし、ニューヨークでの乗り継ぎの際、彼は1837年恐慌によるアメリカの経済的混乱を目の当たりにします。この時、アンドリュー・ジャクソン大統領の2期政権が終わったばかりでした。ベルモントはハバナへ行く代わりにニューヨークに残り、ロスチャイルド家の経済的利益を守ることを決意します。

オーガスト・ベルモント・アンド・カンパニーの設立

経済恐慌の中、ニューヨークのロスチャイルド家の代理店を含む多くのアメリカ企業が倒産しました。ベルモントはハバナ行きを延期し、破産したアメリカの代理店に代わる会社として、オーガスト・ベルモント・アンド・カンパニーを設立しました。同社はすぐに成功を収め、ベルモントは設立から5年でロスチャイルドの米国における利益を回復しました。

オーガスト・ベルモント・アンド・カンパニーは外国為替取引、商業・個人ローン、企業、鉄道、不動産取引などを手掛け、多角的な事業展開を行いました。

オーストリア総領事

1844年、ベルモントはニューヨークのオーストリア帝国総領事に任命され、アメリカにおける帝国政府の業務を代表しました。しかし、ハンガリーに対するオーストリア政府の政策に異を唱え、1850年に領事館を辞任します。しかし、ベルモントの政治への関心は高まり続けました。

アメリカ政界への参入

ベルモントは、妻の叔父でルイジアナ州の上院議員であり、後に南軍の外交官となったジョン・スライデルに政治の世界へと導かれました。ベルモントの最初の任務は、1852年の大統領選挙で民主党候補指名を目指したジェームズ・ブキャナンの選挙キャンペーンマネージャーでした。1851年、ベルモントは新聞社に手紙を送り、ブキャナンを支持しました。しかし、民主党の指名を獲得したのはフランクリン・ピアースでした。

オランダ大使

1853年、ピアースはベルモントをオランダへの臨時代理大使に任命。ベルモントは1857年までこの役職を務めました。オランダ在任中、ベルモントはキューバのアメリカ併合を主張する「オステンド・マニフェスト」を支持しました。しかし、新大統領となったブキャナンは、このマニフェストの影響もあり、ベルモントをスペイン大使に任命しませんでした。

その後、ベルモントは1860年の民主党全国大会でスティーブン・ダグラス上院議員を支持しました。

民主党全国委員会委員長

ダグラス上院議員はベルモントを民主党全国委員会の委員長に指名しました。ベルモントは、この役職を名誉職から政治的に重要な職へと変え、現代アメリカの政党組織を確立したと考えられています。彼は南北戦争において北軍を積極的に支持し、「ウォーデモクラット」として活動しました。また、ヨーロッパのビジネス界や政治家への影響力を使い、南軍への資金提供や軍事購入を抑制しました。

戦後は民主党全国委員会の委員長として、民主党の「最も悲惨な時代」を乗り切りました。1862年には、ニューヨーク・ワールド紙を民主党の主要な報道機関に育て上げました。

戦後の政治活動

1864年の報道では、ベルモントは南軍の債券を購入したとされましたが、終戦後の共和党の分裂を利用し、1868年にはサーモン・チェイスを大統領候補に推しました。1872年、ベルモントは民主党全国委員会の議長を辞任しましたが、政治活動を続け、ラザフォード・B・ヘイズの大統領選出を批判しました。

私生活

1849年、ベルモントはキャロライン・スライデル・ペリーと結婚。ユダヤ教からキリスト教に改宗したとされています。彼らには6人の子供がおり、息子たちは皆政治に関わりました。

1890年、ベルモントはニューヨークで肺炎により死去しました。遺産は2019年の価値で約2億6700万ドルに相当すると言われています。

競馬への情熱

ベルモントは競馬を愛し、ベルモントステークスは彼の功績を讃え、名付けられました。彼は1866年から1887年までナショナルジョッキークラブの会長を務め、生産牧場も所有しました。彼の競馬資産は死後売却されましたが、息子のオーガスト・ベルモント2世は繁殖牝馬を買い取り、後の名馬マンノウォーの生産につながりました。2018年、アメリカ競馬名誉の殿堂博物館はベルモントの功績を称え、殿堂入りさせました。

遺産

ニューハンプシャー州の街ベルモントは、彼の名誉を称えて名付けられました。また、ロードアイランド州ニューポートにあったベルモントの邸宅は1946年に取り壊されました。

作家イーディス・ウォートンの小説「無邪気の時代」に登場するジュリアス・ボーフォートは、ベルモントがモデルだと言われています。

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