オーッサ・スルタン国

オーッサ・スルタン国（またはアファール首長国）は、現在のエチオピア東部、アファール州の地に1734年から1936年まで栄えた王国です。この地はアファール人によって支配され、その歴史は、独立した主権国家としての時代から、近隣の大国や列強との複雑な関係を経て、エチオピアの一部となるまでの変遷をたどります。

歴史

独立王朝の成立

1734年、アファール人の有力氏族であるムダイト氏族の族長ケダフは、オーッサを拠点に独立を宣言し、ムダイト朝を興しました。ここにオーッサ・スルタン国の歴史が始まります。建国当初、スルタンの権威を示す象徴として用いられたのは、魔力が宿ると信じられていた銀の元帥杖でした。王国の勢力は広がり、現在のエリトリアに位置するデンケル低地にまで及ぶ広大な領域を支配下に置きました。初代スルタンであるケダフの治世の後、1749年には息子のムハンマド・ケダフが、そして1779年にはその子のイジュダヒスが王位を継承するなど、王朝は代々引き継がれていきました。

列強とエチオピアの狭間で

19世紀に入ると、アフリカ分割を進めるヨーロッパ列強や、勢力を拡大するエチオピア帝国との関係が深まります。1865年には、イタリア王国が紅海沿岸の港湾都市アッサブを買収し、この地域への足がかりを築きました。オーッサ・スルタン国は、外部からの侵攻に対抗する局面も経験します。特に1875年には、当時のスルタン、ムハンマド・イブン・ハンファドが、エチオピアへの遠征軍を率いていたエジプトのワーナー・ムンジンガーを打ち破り、戦死させるという戦果を挙げました。しかし、周辺情勢は厳しさを増し、1890年にはイタリア領エリトリアが正式に成立します。さらに、1894年から1896年にかけてのエチオピアとイタリアの間で戦われた第一次エチオピア戦争では、エチオピア皇帝メネリク2世はオーッサがイタリア側に協力しないよう、その首都アサイタに軍を駐留させるなど、両国の綱引きの対象となりました。そして、1935年から1939年の第二次エチオピア戦争においては、オーッサ・スルタン国は侵攻してきたイタリア勢力に協力を余儀なくされました。

近代エチオピアへの編入と自治

第二次エチオピア戦争の結果、オーッサ・スルタン国は1936年にイタリア領東アフリカの一部として併合され、独立国家としての幕を閉じます。第二次世界大戦を経て、1945年にはエチオピア帝国の一部として再編されました。その後も、1970年代初頭までは、エチオピア政府によって名目上のスルタンが指名され、地域において比較的大きな自治権を保持しました。しかし、帝国の集権化を進める皇帝ハイレ・セラシエ1世の政府と、アファール人の伝統的な自治を守ろうとする勢力との間には緊張が生まれました。特に1943年にスルタンに任じられたアリミラー・ハンフェレは、中央政府との対立を深め、アファール人が一つの自治州の下で結束すべきだと主張しました。

アファール自治州構想と近年の動向

1960年代に入り、エチオピア・エリトリア連邦の解体が近づくにつれて、アファール人の政治的動向は活発化します。1961年には、当時エリトリアに居住していた多くのアファール人有力者が、エチオピア国内にアファール自治州を創設する構想を支持しました。1963年にエリトリアがエチオピアの一州となった後、アッサブに集まったアファール人指導者たちは改めて自治州創設への合意を形成し、翌1964年には首都アディスアベバで皇帝に直接要求を行いましたが、これは実現しませんでした。

1974年にエチオピア帝国が崩壊し、社会主義政権が成立すると、長年スルタンとしてアファール人を率いてきたアリミラーは1975年にサウジアラビアへ亡命します。しかし、1991年にメンギスツ政権が倒れるとアリミラーは帰国を果たし、アファール人社会における指導的な立場を再び確立しました。2011年にアリミラーが死去した後、その息子がスルタン位を継承し、現在も名目的ながらその地位は続いています。

オーッサ・スルタン国の歴史は、独立国家から植民地支配、そしてエチオピアの一部としての複雑な道のりを物語っており、アファール人社会のアイデンティティと政治的地位を巡る長い闘争の象徴となっています。

もう一度検索