カトナ

カトナ：古代都市国家の盛衰

カトナ（Qatna）は、現在のシリア、ホムスの北東に位置する古代都市国家の遺跡です。テル・エル・ミシュリフェという遺丘にあり、その面積は1平方kmにも及びます。青銅器時代には西シリア最大級の都市として栄え、重要な交易拠点としての役割を果たしていました。

遺跡の概要

カトナの都市を囲む城壁は、現在でもその一部が高さ20mに達するほど残っています。城壁は日干しレンガと石灰岩で造られており、かつては石灰岩で覆われていたと考えられています。都市の形は珍しい四角形であり、各辺の中央には門が設けられています。これらの門は白い石灰岩と黒い玄武岩で装飾され、その入り口の幅は4mにもなります。

都市の中心部にはアクロポリスと推定される丘があり、その北には青銅器時代のシリア最大級の宮殿がありました。宮殿の間取りはマリの宮殿と類似しており、玄武岩でできた柱の基礎が多数発見されています。また、長さ20mもある玉座の間など、巨大な部屋が存在し、杉材の梁が屋根に使われていたと考えられています。2002年には、王族の住居と考えられる二つ目の宮殿も発見されました。

発掘調査

カトナの発掘調査は、フランス委任統治領時代の1920年代に始まりました。その後、1990年代にシリア文化省考古総局が発掘を行い、1999年からは考古総局、イタリアのウーディネ大学、ドイツのテュービンゲン大学が共同で発掘を再開しました。2002年には王墓と楔形文字の粘土板が発見され、大きな注目を集めました。

歴史

交易の要衝

紀元前2千年紀、カトナはメソポタミアと地中海を結ぶ交易路の要衝として繁栄しました。マリから地中海へ至るスズ貿易の中継地であり、キプロスからの銅がメソポタミアへ運ばれるルートにも位置していました。マリで発見された粘土板文書には、カトナを経由してマリに届く様々な品物が記録されています。

都市国家カトナ

カトナが文献に初めて登場するのは、ウル第三王朝の時代です。マリから発見された文献によれば、最初の王はイシ・アッドゥであり、彼は上メソポタミアのシャムシ・アッドゥと同盟を結んでいました。その後、アムト・ピ・エル王の時代には、バビロニアのハンムラビ王と同時代でした。マリがハンムラビに征服された後、カトナに関する記録は減少しますが、ヤムハド（アレッポ）との間で覇権を争いました。

ミタンニ帝国の台頭後、カトナはミタンニと同盟を結びますが、エジプトとの係争地となります。エジプト第18王朝のトトメス3世は、カトナに滞在したことが記録されています。アメンホテプ2世はカトナを攻撃し、戦利品を奪いました。

没落

カトナは、ヒッタイトの王シュッピルリウマ1世のシリア遠征によって征服され、略奪を受けました。当時、カトナのアキジ王子はエジプトのアメンホテプ4世に助けを求めましたが、エジプトは内政に忙殺され、カトナを救うことはできませんでした。アマルナ文書には、アキジ王子からアメンホテプ4世に宛てた親書が残されています。

カトナはその後も存続しましたが、交易路の中継地としての役割をホムス（エメサ）に奪われ、衰退していきました。しかし、遺丘からは新バビロニア時代の出土品も見つかっており、その後も人が住んでいたことがわかります。

出土品

カトナの宮殿跡からは、キプロスから輸入された陶器や、紀元前2千年紀の陶器工房跡が見つかっています。2002年には、頭のない玄武岩製の像が発見されました。この像は高貴な人物の象徴である「シリアのコート」を着ており、カトナの王の像と考えられています。また、同じく2002年には、楔形文字が書かれた粘土板63枚が発見されました。これらの粘土板は、ヒッタイトの侵略時に隠されたものであり、当時の政治状況や行政文書が記されています。

カトナの遺跡は、古代都市国家の盛衰を物語る貴重な遺産です。今後の発掘調査によって、さらなる歴史の解明が期待されています。

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