カネヒラ

カネヒラ (Acheilognathus rhombeus)

カネヒラは、コイ目コイ科タナゴ亜科に属する淡水魚で、在来タナゴ類の中では最大種です。学名にある「rhombeus」は「菱形」を意味し、その体型を表しています。タナゴ属のタイプ種としても知られています。

分布

カネヒラは、琵琶湖・淀川水系以西の本州、九州北部、そして朝鮮半島に分布しています。近年では、本来の生息地以外でも分布を拡大しており、その影響が懸念されています。

形態

全長12〜16cmに達し、タナゴ類の中では最も大きいです。体形は著しく側扁しており、体高が高いのが特徴です。体色は銀白色で、肩部に暗色の逆三角形の斑紋があります。体側面には緑色の斑紋、口角には短い口髭があります。背鰭は3棘12-13軟条、臀鰭は3棘9-11軟条で構成されています。

繁殖期になると、オスは眼の虹彩が赤色に、背面が金属光沢のある青緑色に、体側が淡い水色に、腹面や各鰭がピンク色に染まる鮮やかな婚姻色を呈します。また、吻端には白色の追星が現れます。メスは産卵期に短い産卵管が確認できます。

生態

河川や湖沼の水草が繁茂する緩やかな流れに生息し、植物食性の強い雑食性です。藻類を主食としますが、水生昆虫や甲殻類、ミミズなども捕食します。繁殖期には、二枚貝が豊富な水域を求めて活発に移動します。寿命は2年程度です。

産卵は9月から11月にかけて行われ、イシガイ、カタハガイ、タテボシガイなどの二枚貝に産卵します。カネヒラは、秋に産卵するタナゴ類の中でも、春にも産卵することがあります。孵化した仔魚は母貝内で越冬し、春に稚魚として出現します。

分布拡大

カネヒラは、環境の変化や外来魚の影響を受けていますが、琵琶湖ではタナゴ類の優占種となっています。これは、カネヒラの高い遊泳力と秋産卵型の生活史が、外来魚の捕食を回避するのに有利に働いていると考えられます。

しかし、本来の分布域外への拡大は、養殖アユや二枚貝への混入、釣り人による放流などが原因で、東日本や四国にも定着しています。これらの地域では、在来のゼニタナゴなどとの競合が問題となっています。

ゼニタナゴとの競合

カネヒラの分布拡大に伴い、在来の絶滅危惧種であるゼニタナゴが姿を消す現象が報告されています。これは、両種が同じ秋産卵型で食性が類似しているため、産卵場所や生活テリトリーを巡る競合が激化したと考えられます。カネヒラは、日本産タナゴ亜科魚類でありながら、分布域外では国内外来種として在来生態系をかく乱する恐れがあります。

利用

食用としての利用は一般的ではありませんが、他のタナゴ類と混獲されたものを佃煮や雀焼きなどで食することがあります。ただし、寄生虫を保持している可能性も指摘されています。

観賞魚としては、繁殖期のオスの婚姻色が美しく、大型であることから人気があります。しかし、飼育個体の遺棄や放流は、在来生態系に悪影響を与えるため、絶対に避けるべきです。

釣り

霞ヶ浦では、カネヒラを対象とした釣りが盛んに行われています。専用の釣り具を使い、アカムシやミミズなどの餌で群れを狙います。専用の釣り具は高価で入手が難しいですが、自作する釣り人も多く、その過程も楽しむ要素の一つとなっています。

まとめ

カネヒラは、その美しい姿と生態から、観賞魚や釣り対象魚として親しまれる一方で、分布拡大による生態系への影響が懸念されています。この魚を理解し、適切な保護活動と外来種問題への意識を持つことが重要です。

参考文献

『原色ワイド図鑑5 魚・貝』 学習研究社, 1984年, p.13
『小学館の図鑑NEO 魚』 小学館, 2003年, p.40
赤井裕、秋山信彦、鈴木伸洋、増田修『タナゴのすべて』エムピージェー、2004年。ISBN 4-89512-529-7
赤井裕、秋山信彦、上野輝彌、葛島一美、鈴木信洋、増田修、藪本美孝『タナゴ大全』エムピージェー、2009年。ISBN 978-4-904837-08-5
北村淳一、内山りゅう『日本のタナゴ』山と渓谷社、2020年、133頁。ISBN 978-4-635-06289-3

関連項目

魚の一覧
* タナゴ亜科

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