カペーナ門

カペーナ門（Porta Capena）

古代ローマの都市を囲んでいた強固な防衛線、セルウィウス城壁に設けられた重要な城門の一つが、カペーナ門（ラテン語: Porta Capena）です。この門は、古代ローマとその広大な領域を結ぶ主要な交通網であったアッピア街道とラティーナ街道が、ローマ市内に向かう際の起点となっていました。これらの街道は古代ローマの経済、軍事、文化交流において極めて重要な役割を果たしており、その起点であったカペーナ門もまた、人々の往来や物資の移動の中心地として賑わいをみせていたと考えられます。門の名前は、アッピア街道の初期の終着点とされていた都市カシリナム（現在のカンパニア州カプアにあたる）に由来するという説があります。

カペーナ門の歴史については、いくつかの考古学的な示唆があります。発掘調査などからは、ローマ帝国の皇帝であるドミティアヌス帝あるいはネロ帝の治世期に、この門が修復された可能性が指摘されています。しかし、都市が拡大し、帝政期に入る頃には、セルウィウス城壁が市街地に取り込まれていく中で、カペーナ門も本来の都市への入り口としての機能は失われていきました。この時期の修復は、むしろマルキア水道の支流として設けられた水道橋の構造物の一部として行われたのではないかと考えられています。これは、城壁の機能が時代とともに変化していったことを物語る一例と言えるでしょう。

残念ながら、現代においてカペーナ門の具体的な姿を見ることはできません。門そのものは長い歴史の中で失われてしまいましたが、その推定される位置は特定されています。現在はローマ市内のカエリウスの丘の南西斜面にあたり、古代ローマ最大の競技場であったキルクス・マクシムスと、広大な公共浴場施設であったカラカラ浴場との間に位置する、現在のカペーナ広場（Piazza di Porta Capena）周辺であったと推測されています。かつてこの門があった場所を示す確かな痕跡は少ないですが、その推定地周辺からは、かつてのセルウィウス城壁の一部と思われる断片が見つかるに留まっています。

また、カペーナ門の近くには、清らかな泉があったと伝えられています。この泉から汲まれた水は、古代ローマの商人や旅人の守護神であるメルクリウスを称える祭典「メルクラリア（Mercuralia）」において、聖なる水として用いられたとも言われています。このエピソードは、カペーナ門周辺地域が単なる交通の要衝であるだけでなく、古代ローマの人々の信仰生活とも深く結びついていたことを示唆しています。

現代におけるカペーナ門推定地へのアクセスは容易です。ローマ地下鉄B線のチルコ・マッシモ駅からすぐの場所に位置しています。周辺には、古代ローマの歴史を物語る重要な遺跡や、現代の国際機関などが点在しています。例えば、国際連合食糧農業機関（FAO）の本部ビルがすぐ近くにあります。また、皇帝カラカラ帝が216年に完成させた壮大なローマ浴場であるカラカラ浴場や、紀元前6世紀頃の王政ローマ時代に造られ、最大15万人を収容できたとされる巨大な競技場跡であるキルクス・マクシムスも隣接しており、古代ローマのスケールを肌で感じることができます。さらに、ローマ教皇グレゴリウス1世が575年から580年にかけて創設したベネディクト会の教会・修道院であるSan Gregorio Magno al Celioもほど近い場所にあります。これらの施設に囲まれた現在のカペーナ広場周辺は、古代の交通の要衝であったカペーナ門の記憶を留めつつ、現代のローマの重要な一角を形成しています。

かつて、多くの人や物が行き交い、都市と外部を結ぶ扉であったカペーナ門。その姿は失われても、街道の起点としての歴史的な重要性や、周辺の遺跡群を通じて、古代ローマの息吹を感じることができる場所です。

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