カラスビシャク

カラスビシャク：その形態、生態、そして薬効

カラスビシャク（学名： Pinellia ternata）は、サトイモ科ハンゲ属に分類される多年草です。その名の由来は、ユニークな花の形がカラスが使う柄杓を思わせることから来ています。独特な形状をした仏炎苞と呼ばれる花弁と、そこから伸びる糸状の付属体が特徴的です。

多様な呼び名と地方名

カラスビシャクは「ハンゲ（半夏）」という別名でも広く知られています。これは、乾燥させた根茎を生薬として利用する際の名称です。「ヘソクリ」や「へぶす」といった別名も存在し、地域によっては「ヒャクショウナカセ（百姓泣かせ）」「カラスノオキュウ（烏のお灸）」といった方言名も用いられています。「ヘソクリ」は、かつて根茎を薬屋に売って生計を立てていたことに由来すると言われています。古くは『清異録』に「痰宮劈歴」という別名も記されています。花言葉は「心落ち着けて」です。

広い分布域と侵略的外来種としての側面

カラスビシャクは、日本では北海道から九州・沖縄まで広く分布しています。国外では中国や朝鮮半島にも自生が確認されています。日本では古くから帰化していたと考えられていますが、北アメリカの一部地域では、侵略的外来種として問題視されています。山地の道端や畑地、川原など、日当たりの良い場所から半日陰まで幅広い環境に生育し、畑地では厄介な雑草として知られています。地下茎で繁殖するため、駆除が困難です。

旺盛な繁殖力と独特の形態

カラスビシャクは、地下茎やむかごによって旺盛に繁殖する小形の多年草です。草丈は20～40cmほどで、地下茎から伸びる葉柄の先端に葉をつけます。葉は卵形から矛形、3小葉の複葉と変化に富み、若い株では単葉のものも見られます。3小葉の基部や葉柄の途中には、三角形のむかごをつけ、これが落下して新たな個体へと成長します。

夏の開花と独特の花序

開花期は初夏から夏（5～8月）で、雌雄同株です。花茎は葉よりも高く伸び上がり、先端に独特の仏炎苞に包まれた肉穂花序をつけます。花軸の上部は雄花群、下部は雌花群からなり、テンナンショウ属の花によく似た形状をしています。仏炎苞の色は紫色か緑色で、花序の先端が糸状に長く伸びているのが特徴です。この点ではウラシマソウを小型にしたような姿をしていますが、雌花序部が仏炎苞と癒合するなど、明確な違いも存在します。花が終わると地上部は枯れます。

分類と近縁種

カラスビシャクは、花の形がウラシマソウに似ていますが、仏炎苞と花序の癒合様式などから別属に分類されています。日本には同属のオオハンゲ(P. tripartita)も存在し、カラスビシャクより大型で、葉が深く3裂するのが特徴です。また、芳香のあるニオイハンゲが園芸植物として栽培されています。

多様な変異

カラスビシャクには多くの変異があり、小葉の形や仏炎苞の色などに違いが見られます。シカハンゲ、ムラサキハンゲ、ヤマハンゲといった品種が知られています。

生薬としての利用：半夏

カラスビシャクの根茎の皮を除いて乾燥させたものは、「半夏（はんげ）」という生薬として古くから利用されてきました。日本薬局方にも収載されており、鎮吐作用のある多糖体などを含んでいます。半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、抑肝散加陳皮半夏といった漢方方剤に配合され、つわりの治療などにも用いられてきました。また、サポニンを多く含むことから、痰切りやコレステロール吸収抑制効果も期待されています。ただし、生の状態ではシュウ酸カルシウムを含み、食用には適しません。7月2日ごろは、カラスビシャクが生える時期として「半夏生」という雑節にもなっています。

参考文献

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金田初代・金田洋一郎『季節・生育地でひける 野草・雑草の辞典530種』西東社、2013年
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近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本Ⅰ単子葉類』平凡社、1982年
主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年
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米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）

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