カルメル山

カルメル山：自然、歴史、宗教が織りなす聖地

カルメル山は、イスラエル北部のハイファに位置し、南北39kmにわたって広がる丘陵地帯です。その地質学的多様性、人類の進化を示す貴重な遺跡、そして諸宗教における聖地としての重要性から、世界的に注目されています。

地理と自然

カルメル山は、石灰岩、苦灰岩、チョークなど、多様な岩石で構成されています。かつての海底火山の噴火の痕跡も見られ、複雑な地質構造をしています。気候は半乾燥で、アレッポマツ、セイチガシ、タルボガシなどの硬葉樹林が広がっています。春にはニワシロユリや10種類以上のランが咲き誇り、美しい景観を作り出します。

西側の地中海岸には、岩石海岸と砂浜海岸が広がります。岩石海岸には珍しいクルカルの礁石が見られ、砂浜海岸はアカウミガメやアオウミガメの営巣地となっています。また、ムジハラファイアサラマンダーが生息し、ノロジカ、ダマジカ、シロエリハゲワシ、エジプトハゲワシ、ボネリークマタカの再導入も試みられています。その豊かな生態系はユネスコの生物圏保護区にも指定されています。

人類の進化を示す遺跡

カルメル山は、人類の進化を研究する上で重要な場所です。ホモ・エレクトゥス、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・サピエンスなどの化石人類にとって、アフリカからユーラシアへの移動における重要な通過地点であったと考えられています。

スフール洞窟からは、アフリカ大陸外で発見された最も古いホモ・サピエンスの化石の一つが出土しています。約10万年前のもので、胸の上に猪の顎骨を置かれた成人男性の頭蓋骨化石です。一方、タブーン洞窟からは、ヨーロッパを起源とするネアンデルタール人類の化石（タブーン人）が発見されています。これは、約12万年前のもので、ムスティエ文化に属する生活痕跡も見つかっています。これらの発見は、異なる系統の古人類がカルメル山周辺で共存していた可能性を示唆しています。

エル＝ワド洞窟からは、中石器時代のナトゥーフ文化の遺跡が発見されています。この遺跡からは、細石器を中心とした打製石器や骨製の装身具が見つかっており、定住生活の傾向や農耕の兆しがうかがえます。

諸宗教の聖地

カルメル山は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、バハイ教など、様々な宗教にとって聖地となっています。旧約聖書では、預言者エリヤがバアルの預言者と対決した場所として知られています。キリスト教徒にとっては、カルメル会発祥の地であり、聖母マリアを象徴する山として崇められています。

19世紀には、キリストの再臨を信じるドイツ人が入植地を建設し、ハイファの近代化に貢献しました。19世紀後半には、バハイ信教の本拠地がカルメル山周辺に置かれました。バハイ教の創始者であるバハオラの先駆者、バーブの廟が建設され、バハイ教徒にとって重要な巡礼地となっています。宗教本部にあたる「万国正義院」も置かれており、カルメル山にあるバハイ教の聖地群は、2009年にユネスコの世界遺産に登録されました。

カルメル山は、その自然の美しさ、古代からの歴史、そして宗教的な重要性が融合した、他に類を見ない場所です。訪れる人々は、その豊かな自然の中で、古代からの歴史に触れ、精神的な安らぎを得ることができます。

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