ガイウス・スエトニウス・トランクィッルス

ガイウス・スエトニウス・トランクィッルスは、西暦70年頃から140年頃にかけて生きたローマ帝国の歴史家であり、政治家でもありました。彼は、特に『皇帝伝』の著者として名を馳せています。

生涯と経歴

スエトニウスは、現在のアルジェリアにあたるヒッポ・レギウスで、エクィテス（騎士階級）のスエトニウス・ラエトゥスの子として生まれました。父ラエトゥスは、内戦時にオト帝の軍に従い、ゲルマニア・スペリオル属州総督アウルス・ウィテッリウスとの戦いにも参加しています。

スエトニウスは、元老院議員であり歴史家でもあった小プリニウスと親交がありました。小プリニウスは、スエトニウスを物静かで勤勉な人物と評し、文筆活動に専念していたと記録しています。小プリニウスは、スエトニウスがイタリアに所有していた不動産に関する免税措置を、当時の皇帝トラヤヌスに取り計らっています。これは、未婚で子供のいなかったスエトニウスにも、3人の子を持つ父親に与えられたのと同様の特権を認めさせるものでした。また、小プリニウスを通じて、スエトニウスはトラヤヌスやハドリアヌスといった皇帝たちとも親交を深めています。

110年から112年の間、スエトニウスは小プリニウスがビテュニアおよびポントス両属州のプロコンスルとして赴任した際に同行しています。また、トラヤヌス帝の治世下では、秘書官や公文書館の監督業務にも携わっていたようです。しかし、112年にハドリアヌス帝から、皇妃ウィビア・サビナに対する不敬な態度を理由に解任されてしまいます。この解任は、ハドリアヌス帝の行政改革の一環であった可能性も指摘されており、後に再びハドリアヌスに重用された可能性も考えられています。しかし、122年以降、スエトニウスが再び公職に就いたという記録は残っていません。

『皇帝伝』

スエトニウスは、何よりも『皇帝伝』の著者として知られています。この作品は、ユリウス・カエサルからドミティアヌスまでの12人のローマ皇帝の伝記をまとめたものです。具体的には、ユリウス・カエサル、アウグストゥス、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロ、ガルバ、オト、ウィテッリウス、ウェスパシアヌス、ティトゥス、そしてドミティアヌスの生涯が描かれています。ただし、カエサルの伝記については、最初の部分が失われています。

『皇帝伝』は、おそらくハドリアヌスの治世中に書かれたとされ、スエトニウスの友人であり、119年にプラエフェクトゥス・プラエトリオ（近衛隊長）を務めていたガイウス・セプティキウス・クラルスに献呈されました。

この作品の特徴は、各皇帝について一定の形式で記述している点です。まず、皇帝の外見、前兆、系譜、引用などが述べられ、その後、生い立ちや事績が一貫した順序で詳細に語られます。スエトニウスは、公共のために蓄財した皇帝を「貪欲」と見なす傾向がありましたが、これは当時のローマ中流階級の一般的な考え方を反映している可能性があります。

日本語訳

スエトニウスの『皇帝伝』は、日本語訳もいくつか出版されています。
国原吉之助訳、『ローマ皇帝伝』岩波文庫（上下）、1986
角南一郎訳、『ローマ皇帝伝　カエサル・アウグストゥス・ティベリウス』現代思潮社「古典文庫」、1984（前半部分のみの重訳）

スエトニウスの『皇帝伝』は、古代ローマの皇帝たちの人物像や当時の社会情勢を知る上で、非常に重要な資料となっています。彼の記述は、時に批判的でありながらも、皇帝たちの人間的な側面を浮き彫りにしており、現代の私たちにとっても興味深い内容です。

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