クズルバシュ

クズルバシュ：サファヴィー朝を支えた「赤い頭」たち

クズルバシュ（Kızılbaş）は、ペルシア語で「赤い頭」を意味し、サファヴィー教団の信徒、特にアナトリア高原に居住するトルコ系遊牧民を指します。サファヴィー朝の建国と拡大に大きく貢献しましたが、その後の歴史の中で権力を失い、変容を遂げました。

サファヴィー朝建国期におけるクズルバシュ

クズルバシュの起源は、15世紀後半のサファヴィー教団に遡ります。教団長のシャイフ・ハイダルが、信徒に赤いターバンを着用させたことが名前の由来です。ターバンには12の襞があり、これはシーア派の十二イマームを象徴していました。

1499年、イスマーイール1世がサファヴィー朝の建国を宣言すると、アナトリア各地のクズルバシュが彼の元に集結しました。彼らはイスマーイール1世を「無謬の教主」として神聖視し、救世主と信じていました。死を恐れぬクズルバシュの騎兵は、密集した陣形での突撃を得意とし、敵軍に恐れられました。

イスマーイール1世は、クズルバシュの部族長たちに地位と領地を与え、彼らはサファヴィー朝の軍事・行政の中枢を担いました。しかし、チャルディラーンの戦い以降、クズルバシュは封建領主としての性格を強め、部族間の対立が表面化します。イスマーイール1世の死後、後継者のタフマースブ1世が幼少で即位すると、クズルバシュの権力闘争は激化しました。

クズルバシュの権力闘争と衰退

クズルバシュの部族長たちは、大アミールの地位を巡って互いに争い、オスマン帝国やシャイバーニー朝の侵入を招きました。タフマースブ1世は、クズルバシュの抑圧を図り、イランやカフカース出身の人材を登用しました。また、政争に敗れたクズルバシュはオスマン朝に寝返り、サファヴィー朝を脅かしました。

1578年、ムハンマド・ホダーバンデの即位後、クズルバシュの抗争は再燃し、内乱状態となりました。この混乱に乗じて、オスマン帝国はアゼルバイジャンを占領しました。1587年、アッバース1世はクズルバシュの支援を受けて王位を簒奪し、親政を開始します。

アッバース1世は、クズルバシュに依存した軍事制度を改革するため、コルチ、ゴラーム、砲兵隊からなる新軍を編成しました。また、国王直轄領を拡大し、クズルバシュの部族長の地位を剥奪しました。これにより、サファヴィー朝は遊牧国家としての性格を失い、クズルバシュは国家の中枢から排除されました。

クズルバシュ的シーア主義

クズルバシュは、独自の宗教的特徴を持っていました。シャイフ・ジュナイドは、トルコ系遊牧民に受け入れやすいように、イスラーム教義とシャーマニズムの要素を融合させた「クズルバシュ的シーア主義」を唱えました。

その特徴は以下の通りです。

十二イマーム崇拝とメシアニズム
スンナ派に対する強い憎悪
* 呪術的な宗教儀礼

民族としてのクズルバシュ

現在、クズルバシュとされる人々は、イラン、イラク、アフガニスタン、アゼルバイジャンなどに居住しています。彼らは一般的にトルクメン人として認識されています。

クズルバシュは、サファヴィー朝の歴史において重要な役割を果たしましたが、その後の権力闘争やアッバース1世の改革によって衰退しました。しかし、彼らの宗教的・文化的遺産は、現在もイランや周辺地域に色濃く残っています。

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