タフマースブ1世

タフマースブ1世：サファヴィー朝を立て直したシャー

タフマースブ1世（1514年 - 1576年）は、サファヴィー朝の第2代シャーであり、その治世は王朝の安定化と中央集権化に向けた重要な時期でした。初代シャー・イスマーイール1世の息子として生まれた彼は、幼少期から困難な状況に直面し、多くの試練を乗り越えながらサファヴィー朝の基礎を固めました。

生涯

1524年に10歳でシャーの座を継承しましたが、幼少のためクズルバシュの統制が弱まり、各地で反乱が発生しました。さらに、東からはウズベク人のシャイバーニー朝が侵攻し、王朝は危機に瀕しました。タフマースブ1世は、まずホラーサーンの防衛に注力し、外敵の侵入を食い止めました。

成人後は、クズルバシュの有力者を処刑し、自ら軍事・行政の整備に取り組みました。宰相を任命して地方総督を監視させ、クズルバシュを互いに牽制させることで、勢力の集中を防ぎました。また、弟を軍司令官に任命し、クズルバシュに依存しない親衛隊を組織するなど、軍事力の強化にも努めました。

オスマン帝国との抗争

タフマースブ1世の治世は、オスマン帝国との長きにわたる抗争に明け暮れました。アナトリア半島のシーア派住民を巡る対立から、両国の関係は常に緊張していました。オスマン帝国のスレイマン1世は幾度も遠征を行い、首都タブリーズを占領するなど、サファヴィー朝を苦しめました。しかし、タフマースブ1世はゲリラ戦術と焦土作戦を駆使し、オスマン帝国軍の侵攻を食い止めました。1555年にはアマスィヤ条約が締結され、イラクはオスマン帝国の領土となりましたが、サファヴィー朝はタブリーズを保持し、一定の面目を保ちました。

その後、20年以上にわたる平和が続きましたが、タフマースブ1世は常にオスマン帝国の脅威を警戒し、ヨーロッパからの同盟の誘いを拒否しました。

中央集権化と文化政策

オスマン帝国の侵攻を避けるため、タフマースブ1世は首都をガズヴィーンへ遷都しました。また、グルジア遠征を繰り返し行い、多くの捕虜を獲得し、奴隷として軍事力増強に利用しました。これらの捕虜の中には、後に官僚として登用される者も現れ、中央集権化に貢献しました。

文化面では、ティムール朝のビフザードを召抱え、絵画の発展に尽力しました。彼は『シャー・ナーメ』や『ハムサ』などの豪華な画集を製作させ、サファヴィー朝の文化を豊かにしました。

後継者争いと王朝の危機

晩年、タフマースブ1世は政治への関心を失い、宗教的な活動に没頭するようになりました。後継者を指名しなかったことが、死後の混乱を招きました。彼の死後、クズルバシュやグラーム、ハーレムの女性たちが権力闘争を繰り広げ、王朝は分裂の危機に瀕しました。内乱は孫のアッバース1世によって鎮められ、サファヴィー朝は再び安定を取り戻しましたが、タフマースブ1世の晩年の失策は、王朝に大きな傷跡を残しました。

タフマースブ1世は、サファヴィー朝の基礎を築いたシャーとして評価されています。彼の行った中央集権化政策や軍事改革は、後のアッバース1世による王朝の最盛期を準備しました。しかし、後継者問題への対応の失敗は、王朝の安定を揺るがす要因となり、その功績に影を落としました。

家族

父：イスマーイール1世
母：タージルー・ハーヌム
妃：スルターナム・ベーグム ほか
息子：ムハンマド・ホダーバンデ、イスマーイール2世、ハイダル ほか10人
娘：ガウハルスルターン・ベーグム、パーリー・ハーン・ハーヌム、ハディージャ・ベーグム ほか9人
著名な孫：アッバース1世

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