クラウス・オガーマン

クラウス・オガーマン（1930年 4月29日 – 2016年 3月8日）は、ドイツ出身の傑出した音楽家です。編曲家、指揮者、作曲家として、ポピュラー音楽からクラシック音楽に至るまで、広範な分野でその才能を発揮しました。特に、ビリー・ホリデイ、アントニオ・カルロス・ジョビン、フランク・シナトラ、ダイアナ・クラールといった世界的なアーティストたちとの共同作業により、多くの音楽史に残る録音を生み出したことで知られています。

現在のポーランド領ラディボルで生まれたオガーマンの音楽家としての歩みは、まずピアニストとして始まりました。彼は後に20世紀で最も影響力のある編曲家の一人として評価されるようになります。その活動領域は、トップ40チャートを賑わせるポップスやロック、ジャズ、R&B、ソウル、イージーリスニング、ブロードウェイミュージカルの楽曲、さらにはクラシック音楽にまで及び、まさにジャンルを横断する存在でした。彼が生涯にわたって編曲や指揮を担当したアーティストの数は計り知れません。

キャリア初期、1950年代のドイツでは、クルト・エーデルハーゲン、マックス・グレーガー、デル・ヘンシュといったバンドリーダーたちと共に、編曲家およびピアニストとして活動していました。この時期には、「トム・コリンズ」という名義でパートタイムの歌手としても録音を残しています。

1959年、彼は音楽活動の拠点をアメリカ合衆国に移します。ヴァーヴ・レコードのプロデューサーであったクリード・テイラーとの出会いが、彼のキャリアにおいて重要な転機となりました。ヴァーヴ・レコードでは、アントニオ・カルロス・ジョビン、ビル・エヴァンス、ウェス・モンゴメリー、カイ・ウィンディング、カル・ジェイダーといった数多くの著名なジャズミュージシャンたちの録音に参加し、優れたアレンジを提供しました。

1960年代に入ると、オガーマンはジャズ分野での活動に加え、ポップス界でも次々とヒット作のアレンジを手がけるようになります。1961年にはソロモン・バークの「Cry to Me」を、1963年以降にはレスリー・ゴーアの「涙のバースデイ・パーティ」「涙のジュディ」「She's a Fool」「Maybe I Know」といった全米ヒット曲のアレンジを担当しました。また、ビル・エヴァンス・トリオとシンフォニー・オーケストラが共演した1966年のアルバムでは、オーケストラ編曲と指揮を務めるなど、クラシックとジャズの融合を早くから試みています。クリード・テイラーとは、ヴァーヴからテイラーが設立したCTIレコードに至るまで、長年にわたり協力関係を続けました。

オガーマン自身の名義がヒットチャートに登場したのは1965年のことです。RCAからリリースされたシングル「Watusi Trumpets」がMusic Vendor誌のチャートで130位にランクインしました。

彼の功績は、音楽業界最高の栄誉であるグラミー賞によっても称えられています。1979年にはジョージ・ベンソンのアルバム『ブリージン』でのアレンジメントで、また2010年にはダイアナ・クラールのアルバム『Quiet Nights』でのアレンジメントで、それぞれ最優秀アレンジ賞を受賞しました。特にダイアナ・クラールとは、『The Look of Love』（2001年）とそのDVD『Live in Paris』でも編曲と指揮で共演しています。

クラウス・オガーマンの特筆すべきリーダーアルバムや作曲作品には、1977年の『Gate of Dreams』、バレエ音楽『Some Times』、そしてマイケル・ブレッカーとの共演による『Cityscape』や『Claus Ogerman Featuring Michael Brecker』などがあります。これらの作品では、ジャズの楽器編成やリズムセクションとオーケストラを見事に組み合わせ、彼自身の作曲による独創的な世界を展開しています。

1970年代以降、オガーマンは次第に作曲活動に重きを置くようになります。アメリカン・バレエ・シアターのためにバレエ音楽「Some Times」を、ピアニストのビル・エヴァンスのためにジャズ・ピアノとオーケストラのための「Symbiosis」を、サクソフォーン奏者のマイケル・ブレッカーのために「Cityscape」を書き下ろしました。ラビンドラナート・タゴールの詩に基づく声楽作品「Tagore-Lieder」は、著名な歌手たちによって録音されています。また、ヴァイオリン協奏曲にあたる「Lirico」や「サラバンド・ファンタジー」はヴァイオリニストのアーロン・ローザンドによって、ヴァイオリンとオーケストラのための「Preludio」「Chant」はギドン・クレーメルによって録音されるなど、クラシックの演奏家からも高い評価を得ました。2007年にはヴァイオリニストのユエ・デンとピアニストのジャン＝イヴ・ティボーデが彼のヴァイオリンとピアノのための作品を録音し、2008年にはジャズピアニストのダニロ・ペレスとの共演アルバム『Arcoss The Crystal Sea』を発表するなど、晩年まで精力的に活動しました。

作曲家としては、マックス・レーガーやアレクサンドル・スクリャービンからの影響を認めています。また、彼は自身の音楽が聴き手の感情的な反応を直接呼び起こすことを主眼としていない、という独特の芸術観を持っていました。

彼のキャリアにおいて、アントニオ・カルロス・ジョビンとの仕事は特に重要です。1967年のフランク・シナトラとの共演盤『Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim』での編曲・指揮をはじめ、ジョビンの主要アルバムである『The Composer of Desafinado Plays』『A Certain Mr. Jobim』『Wave』『Jobim』『Urubu』『Terra Brasilis』などに、編曲家、指揮者、あるいはピアニストとして深く関わりました。さらに、『Jobim』と『Urubu』ではプロデューサーとしてもその手腕を発揮し、ブラジル音楽とジャズ、ポピュラー音楽を繋ぐ上で極めて大きな役割を果たしました。

クラウス・オガーマンは、多岐にわたるジャンルで活躍し、多くの名演を創り出した巨匠です。その洗練されたオーケストレーションと、ジャズやブラジル音楽など様々な要素を取り入れる柔軟性、そして独自の作曲スタイルは、没後も多くの音楽家に影響を与え続けています。

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