クラーク (農家)

クラークとは：ソ連における自営農民の悲劇

クラーク（ロシア語: кула́к）とは、20世紀初頭のロシア帝国およびソビエト連邦において、自営農家を指す言葉でした。元々は「拳骨」を意味し、貧農から搾取する「けちで欲張り」な者という蔑称として使われました。

クラークの定義と実態

社会主義体制下では、クラークは農業集団化を妨げ、貧農や中農から土地を奪い、搾取する存在とされました。富裕層とみなされ、迫害や弾圧の対象となりました。しかし、実際には農村は経済格差で分裂していたわけではなく、貧富に関わらず連帯感がありました。共産党が定義する「クラーク」は、牛を数頭所有していたり、家の屋根がトタンであったり、集団化に反抗的であるか否かで決定されました。クラークは「吸血鬼」「迫害者」「寄生虫」としてポスターに描かれ、村の教会司祭やその家族もクラークとされました。

クラーク撲滅運動の歴史

ストルイピン改革とクラークの台頭

クラークは、1906年に始まったピョートル・ストルイピンによる自由主義改革（ストルイピン改革）によって登場しました。この改革によって、土地を所有し、従来の農村共同体「ミール」から比較的自由な存在として成長し、ロシア農業を担う存在となりました。

レーニン時代と戦時共産主義

1917年のロシア革命後、ウラジーミル・レーニン率いるソビエト政権は、戦時共産主義を敷き、クラークを絶滅対象としました。レーニンは、ペンザで起きたクラークの武装蜂起を徹底的に鎮圧するよう命じ、その際「少なくとも100人のクラークを吊るし首にせよ」という指令を出したことはよく知られています。戦時共産主義とロシア内戦によりクラークは大きな痛手を負いましたが、その後のネップ期には一時的に復活しました。

スターリン時代と農業集団化

1928年、ヨシフ・スターリンが第一次五カ年計画を発表し、コルホーズの創設による農業集団化を強行する際、クラークは再び資本主義の敵とされました。スターリンはクラークを抑制するのではなく、絶滅の対象としました。重税を課し、多くのクラークが消滅しました。反乱も起きましたが、政府は厳格な態度で臨み、多くのクラークが処刑されたり、強制収容所に連行されました。犠牲者数は100万人を超えるという説もあります。

特にウクライナでは、モスクワ政府による弾圧が苛烈で、多くのウクライナ人がクラークのレッテルを貼られて粛清されました。ウクライナにおける大飢饉は、クラークと呼ばれた自営農家への迫害と無理な農業集団化が原因であるという説が有力です。

最終的に、自営農地や家畜などの資産はコルホーズに接収され、クラークは完全に解体されました。

フートル農民と迫害

宅地と耕地を一体化した形態であるフートル農民もクラークとして迫害され、絶滅させられました。

クラーク撲滅運動が残した教訓

クラーク撲滅運動は、ソビエト連邦における農業政策の失敗と、イデオロギーによる人道的な悲劇を象徴する出来事です。この運動は、単に富裕な農民を排除するだけでなく、ソビエト社会の根幹を揺るがし、農村部の連帯を破壊しました。

参考文献

奥田央『コルホーズの成立過程 : ロシアにおける共同体の終焉』岩波書店、1990年。ISBN 4-00-000830-7。

関連項目

ミハイル・カラシニコフ - 一家がクラークと認定され、財産の没収と市民権の剥奪を受けている。
コルホーズ
ホロドモール
クラーク撲滅運動

外部リンク

レーニンの農業・農民理論をいかに評価するか―十月革命後の現実を通して― - 梶川伸一

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