クン・テムル

クン・テムル

クン・テムル（生年不詳 - 1402年）は、モンゴル帝国の第21代皇帝であり、北元としては第7代皇帝にあたります。彼はモンゴルの年代記において、トゴーンやコケ・テムルとも呼ばれ、漢文史料では坤帖木児、ペルシア語史料ではKun tīmūrと記録されています。

生涯

クン・テムルの出自については、モンゴル年代記である『蒙古源流』ではエルベク・ハーンの子とされていますが、ティムール朝で編纂されたペルシア語史料ではアリクブケ家の人間であるとされています。『蒙古源流』におけるクン・テムル前後の系図は信憑性が低いとされ、多くの研究者は彼をアリクブケ家の子孫と見ています。

年代記によると、1399年にエルベク・ハーンが殺害された後、クン・テムルがハーン位に就いたとされています。

1400年には、燕王朱棣（後の永楽帝）が靖難の変の最中に、「韃靼可汗クン・テムル」と「オイラト王モンケ・テムル」に使者を派遣しました。モンケ・テムルは、エルベク・ハーンを弑逆したオゲチ・ハシハであるという説があります。

1402年にクン・テムルは亡くなったとされています。明朝の記録によると、同年には鬼力赤（オルク・テムル・ハーン）がハーンに即位しています。

大元と韃靼

『明史』には、クン・テムル・ハーンの死後、オルク・テムル・ハーンが「大元」から「タタール（韃靼）」に国名を変更したという記述があります。しかし、モンゴル側は引き続き自らをモンゴルと称し、「大元のハーン」を自称していたことから、『明史』の記述は編纂者による創作であると考えられています。

クン・テムルの時代は、北元が明との関係を模索し、内部対立も抱えるなど、激動の時代でした。彼の短い治世は、その後の北元の歴史に大きな影響を与えました。



参考文献
井上治『ホトクタイ＝セチェン＝ホンタイジの研究』（風間書房、2002年）
岡田英弘訳注『蒙古源流』（刀水書房、2004年10月）
岡田英弘『モンゴル帝国から大清帝国へ』（藤原書店、2010年11月）
森川哲雄「大元の記憶」『九州大学大学院比較社会文化研究科紀要』14巻、2008年
和田清『東亜史研究（蒙古篇）』（東洋文庫、1959年）
羽田明・佐藤長 他訳注『騎馬民族史3 正史北狄伝』（東洋文庫・平凡社、1973年3月）
* 宝音德力根Buyandelger「15世紀中葉前的北元可汗世系及政局」（『蒙古史研究』第6輯、2000年）

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