グノーシス文書

グノーシス文書とは

グノーシス文書とは、グノーシス主義における教典、神話、文学作品などを記した文書群の総称です。これらの文書は、グノーシス主義の思想や世界観を理解する上で非常に重要な資料となります。

概要

グノーシス文書の多くは、『ナグ・ハマディ写本』に収められています。西方グノーシス主義の文書は、初期キリスト教によって異端とされ、意図的に破壊されたため、長らくその内容が不明でした。しかし、20世紀半ばの『ナグ・ハマディ写本』の発見により、多くのグノーシス文書が再発見され、グノーシス主義の研究が大きく進展しました。

グノーシス文書の種類

グノーシス文書は、大きく西方グノーシス主義と東方グノーシス主義の文書に分類されます。

西方グノーシス主義

西方グノーシス主義の文書は、新約聖書外典に分類されることが多いですが、これはグノーシス主義がキリスト教とは異なる宗教であるにもかかわらず、キリスト教の「異端的文書」として扱われてきたためです。グノーシス主義は既存の秩序や世界観を否定し、独自の神話を創造する傾向があり、そのためにキリスト教の人物や物語を借用しつつ、独自の解釈を加えています。例えば、イエス・キリストやマグダラのマリアといった人物が、グノーシス的な意味合いで描かれています。

西方グノーシス主義の代表的な文書としては、『真理の福音』など、ウァレンティノスの思想やその流れを汲む人々の主張を記したものが挙げられます。初期キリスト教の指導者たちは、グノーシス文書をキリスト教の異端文書として敵視しました。

トマス福音書

『トマス福音書』は、初期キリスト教時代から「第五の福音書」として知られていましたが、教会の異端撲滅運動により、その実態は長らく不明でした。しかし、『ナグ・ハマディ写本』の発見により、この文書が純粋な「イエス語録集」であることが判明し、グノーシス主義文書であることも明らかになりました。この発見は、新約聖書学においても重要な意義を持ち、イエスの言葉の原資料である『Q資料』の存在可能性を高めることにも繋がりました。

東方グノーシス主義

東方グノーシス主義においては、3世紀初頭に興ったマニ教が多くの教典を保有していました。教祖マニ自身が執筆し、弟子たちが各地の言語に翻訳したこれらの教典は、東西ユーラシアに広まりました。マニ教はユダヤ教、キリスト教、ゾロアスター教の神話や人物を題材に取り入れ、独自の神学を展開しました。

また、マンダ教の教典も東方グノーシス主義の重要な文書です。マンダ教は、パレスティナを起源とするコミュニティが、ティグリス・ユーフラテス川を下り、現在のイランとイラクの国境付近に存続したとされています。彼らの教典である『ギンザー』は、現在まで伝わっている貴重なグノーシス文書です。

ヘルメス思想と『ヘルメス文書』

ヘルメス思想は、エジプトを起源とするシンクレティズム思想で、錬金術などの基盤となった古代の秘教的思想です。『ヘルメス文書』は、ヘルメス思想の教典であり、グノーシス主義の影響が見られます。特に『ポイマンドレース』は、西方グノーシス主義のアイオーンの神話に類似したヴィジョンを記述しています。

主なグノーシス文書

以下に代表的なグノーシス文書を列挙します。

『ベルリン写本』
『マリア福音書』
『ヨハネのアポクリュフォン』
『イエスの智慧』
『ペトロ行伝』
『アスキュー写本』（別名『ピスティス・ソピアー』）
『ピスティス・ソフィアー』
『ブルース写本』
『チャコス写本』
『ヤコブの黙示録1』
『ピリポに送ったペトロの手紙』
『ユダの福音書』
『アロゲネス（異邦人）の書』
『ナグ・ハマディ写本』に収録されている文書（一部）
『ヨハネのアポクリュフォン』
『アルコーンの本質』
『この世の起源について』
『トマスによる福音書』
『フィリポによる福音書』
『エジプト人の福音書』
『真理の福音』
『三部の教え』
『魂の解明』
『闘技者トマスの書』
『イエスの知恵』
『雷・全きヌース』
『真正な教え』
『真理の証言』
『三体のプローテンノイア』
『救い主の対話』
『ヤコブのアポクリュフォン』
『復活に関する教え』
『聖なるエウグノストス』
『ピリポに送ったペトロの手紙』
『パウロの黙示録』
『ヤコブの黙示録1』
『ヤコブの黙示録2』
『アダムの黙示録』
『シェームの釈義』
『大いなるセツの第二の教え』
『ペトロの黙示録』
『セツの三つの柱』
『ノーレアの思想』
『アロゲネース（異邦人）』
『ヘルメス文書』
『ポイマンドレース』
『真珠のうた』
『ケルンのマニ教写本』

これらの文書は、グノーシス主義の多様な側面を明らかにし、古代の宗教や思想の研究において重要な役割を果たしています。

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