グリーンランドの歴史

グリーンランドの歴史は、10世紀にアイスランドのヴァイキングが到来したことから本格的に始まります。しかし、それ以前にも先住民が居住していたことが考古学的な証拠から明らかになっています。ヴァイキングの定住は南西岸に限られ、16世紀までに消滅しましたが、18世紀にはヨーロッパ人が再上陸し、デンマーク＝ノルウェー連合王国の領土となりました。その後、デンマーク領となり、第二次世界大戦中にはアメリカの保護下に入るなど、複雑な歴史を辿っています。

前史

10世紀以前、グリーンランドには複数の先住民族が入れ替わり住んでいました。北米大陸から移住してきた人々は、数世紀にわたって居住していたことが確認されています。主な文化としては以下のものがあります。

サカク文化 (Saqqaq)：紀元前2500年 - 紀元前800年頃（グリーンランド南部）
インディペンデンスI文化：紀元前2400年 - 紀元前1300年頃（グリーンランド北部）
インディペンデンスII文化：紀元前800年 - 紀元前1年頃（グリーンランド最北部）
前期ドーセット文化 (Dorset I)：紀元前500年 - 西暦200年頃（グリーンランド南部）

前期ドーセット文化以降、グリーンランドは一時的に無人になったと考えられています。

ヴァイキングの定住

西暦980年代、アイスランドのヴァイキング「赤毛のエイリーク」がグリーンランドを発見しました。彼は殺人事件で追放された際にグリーンランドにたどり着き、その名を付けました。グリーンランドという名前の由来には、温暖な気候による植生説と、植民を促すための誇大宣伝説があります。

エイリークはアイスランドに戻り、植民者を募りました。985年には25隻の船団が出航し、14隻がグリーンランドに到着したと伝えられています。彼らは南西岸に定住地を築き、1000年頃にはエイリークの息子レイフ・エリクソンがヴィンランド（現在のニューファンドランド島）を発見したという伝承もあります。定住地は東西二ヶ所に分かれ、最盛期には3千人から5千人が暮らしていました。13世紀頃にはセイウチの牙、羊、アザラシ、乾燥タラなどを輸出しており、ヨーロッパから木材や鉄製品を輸入していました。住民はキリスト教を信仰しており、複数の教会跡が確認されています。

1261年、グリーンランドの住民はノルウェー王国に忠誠を誓いましたが、自治は維持されました。しかし、1380年にはノルウェーがデンマークの支配下に入りました。14世紀頃からヴァイキングの定住地は衰退し、15世紀後半には消滅したと考えられています。衰退の原因としては、小氷期による寒冷化、ノルウェーの交易独占、象牙の価値低下などが挙げられます。

後期ドーセット文化とチューレ文化

10世紀頃には、後期ドーセット文化がグリーンランド北西部に居住していた可能性があります。しかし、この文化も1300年頃までに消滅しました。1200年頃からは、チューレ文化が西方から広がってきました。チューレ文化は狩猟を中心とした文化で、極地での生活によく適応しており、現在のイヌイットの祖先と考えられています。

ヴァイキングは、アイスランドとは異なり、グリーンランドでは先住民との交流がありました。チューレ文化の人々は12世紀にはヴァイキングと遭遇したと考えられていますが、両文化の交流の痕跡は限られています。ノース人（ヴァイキング）は異民族を「スクレリング」と呼び、『Icelandic Annals』にはノース人とスクレリングの接触が記録されています。この記録によれば、スクレリングが敵意を示し、18人のノース人が殺害され、2人の少年が連れ去られたとされています。考古学的な調査では交易の形跡も見られますが、イヌイットの遺跡からは多数のノース人の産出物が見られるのに対し、ノース人の遺跡からはイヌイットの産出物がほとんど見られません。

デンマークによる植民

1536年にノルウェーがデンマークの支配下に入ると、グリーンランドはデンマーク領となりました。17世紀にはイギリス、オランダ、ドイツの捕鯨船がグリーンランド近海に現れましたが、定住には至りませんでした。1721年、ノルウェーの宣教師に率いられた一団がグリーンランドに上陸し、欧州人による再定住が始まりました。彼らはゴットホープ（現在のヌーク）を建設し、イヌイットとの交易やキリスト教布教を行いました。

1774年にはデンマーク王立グリーンランド貿易会社が設立されましたが、統治はなおざりで交易が中心でした。19世紀初頭には、デンマークはナポレオン戦争で敗戦し、ノルウェーが分離しましたが、グリーンランドはデンマーク領として残りました。19世紀以降には探検家や科学者がグリーンランドを訪れるようになり、グリーンランド生まれの探検家クヌート・ラスムッセンは犬ぞりで探検を行い、地理的な発見や民俗資料を収集しました。19世紀までの定住地の北限は北緯81度あたりまででしたが、19世紀中にはイヌイットが島の最北部へ定住を始めました。

1917年以降、デンマークの植民地支配が全島に及ぶようになり、1862年から1863年にかけて最初の議会が開催されましたが、これは島全体のものではありませんでした。1911年には南部と北部に分かれた議会が導入され、1951年に統合されました。政治決定の多くはデンマーク本土で行われ、グリーンランドにはほとんど決定権がありませんでした。

20世紀前半

1931年には、ノルウェーがグリーンランド東海岸の無人地帯を占領する事件が発生しましたが、1933年の国際司法裁判所の裁定により、デンマークの主権が確認されました。第二次世界大戦中の1940年にデンマーク本国がナチスに占領されると、グリーンランドはアメリカの保護下に入り、アメリカ軍が駐留しました。戦時中、グリーンランドは北米からの物資供給を受け、氷晶石の輸出も好調でした。

冷戦時代には、北極を経由して北米からソ連本土に最も近い軍事要地として、チューレ空軍基地が建設されました。

20世紀後半以降

1953年、グリーンランドはデンマークの植民地から海外郡に昇格し、デンマーク国会に代表を送れるようになりました。デンマーク政府は教育や福祉の充実に力を入れましたが、都市への集住によって漁師の失業問題が発生しました。デンマークが欧州共同体（EC）への関与を深めると、グリーンランド住民の不満が高まりました。経済的にアメリカやカナダとの貿易が有利であったためです。1973年にデンマークがECに加盟した際、グリーンランドでは反対票が多く、自治権獲得運動が活発化しました。

1978年に自治権を獲得し、1979年に発効しました。1982年にはEC脱退を議決し、1985年に脱退しています。同年、自治政府は地名をイヌイット語に変更し、グリーンランドの旗も制定しました。現在、独立運動も盛んになってきています。

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