ケニー・カークランド

アメリカ合衆国出身の傑出したピアニストおよびキーボード奏者、ケニー・カークランドは、1955年 9月28日にこの世に生を受け、1998年 11月11日にその生涯を閉じました。「ドク・トーン（Doc Tone）」のニックネームでも親しまれた彼は、特にスティングやブランフォード・マルサリス、ウィントン・マルサリスといった名だたるアーティストたちとの共演を通じて、その名を知らしめました。

ニューヨーク州ブルックリンのニューポート行政区で生まれたカークランドは、わずか6歳で初めてピアノの鍵盤に触れ、音楽への道へと踏み出しました。カトリック系の学校を経て、マンハッタン音楽学校に進学。ここではクラシック音楽の演奏技術、理論、そして編曲について深く学びました。一時、教鞭を執る経験もしましたが、やがてプロのミュージシャンとして活動する決意を固めます。

彼のプロ・キャリアは1977年、ポーランドのヴァイオリニスト、マイケル・ウルバニアクのグループへの参加を契機に本格的にスタートしました。その後、ベーシストのミロスラフ・ヴィトウスとのギグにも参加し、これらの共同作業からはECMレコードより『ファースト・ミーティング』や『ミロスラフ・ヴィトウス・グループ』といった評価の高いアルバムが発表されています。

カークランドは、ジャンルを超えた数多くの著名なアーティストとの共演を重ねました。ジャズ界からは、ドン・アライアス、カーラ・ブレイ、テレンス・ブランチャード、マイケル・ブレッカー、スタンリー・クラーク、ケニー・ギャレット、ディジー・ガレスピー、エルヴィン・ジョーンズ、ジョン・スコフィールドなど、錚々たるメンバーとのレコーディングに参加しています。また、ジャズの枠を超え、ベン・E・キング、アンジェラ・ボフィル、ユッスー・ンドゥール、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビーといったポピュラー音楽界のアーティストともセッションを行いました。この幅広い活動は、彼がいかに多様な音楽性を持つ、引く手あまたの鍵盤奏者であったかを物語っています。

1979年から1981年にかけては、トランペッターの日野皓正のグループに参加し、日本のジャズシーンとも深い関わりを持ちました。ウィントン・マルサリスとの共演や、後にブランフォード・マルサリス・カルテットのメンバーとなったことが縁となり、ソロ活動を開始したロックミュージシャン、スティングのバンドに不可欠なレギュラーメンバーとして参加することになります。スティングのツアーやレコーディングにおける彼の貢献は絶大で、スティングのサウンドの重要な要素となりました。

サポートミュージシャンとして最高の評価を得ていたケニー・カークランドですが、自身の名を冠したリーダー・アルバムは1991年の『ケニー・カークランド・デビュー!』ただ1作のみに留まりました。これは、彼の卓越した才能と比べて極めて少ない数であり、早すぎる死によって多くの可能性が失われたことを示唆しています。

1998年、彼は突然この世を去りました。当初、薬物の過剰摂取が死因として噂されましたが、実際には鬱血性心不全であったことが後に明らかになりました。医師から手術を強く勧められていたにもかかわらず、手術を避けてツアー活動を続行したことが、病状を悪化させた一因とされています。

ケニー・カークランドの死後も、彼の音楽は生き続けています。スティングは、2001年のライブ・アルバム『…オール・ディス・タイム』に収録された楽曲「ディエンダ」で、亡き友に捧げるトリビュートを行っています。短いながらも濃密なキャリアの中で、彼は膨大な数の録音に参加し、その独自のタッチと音楽性をもって多くのリスナーやミュージシャンに影響を与え続けました。

彼の公式ディスコグラフィは以下の通りですが、ここでは主なものを抜粋します（詳細は専門のデータベースを参照）。

リーダー・アルバム
『ケニー・カークランド・デビュー!』 - Kenny Kirkland (1991年)
主な参加アルバム
ウィントン・マルサリス、ブランフォード・マルサリスの多数の作品
スティングの主要ソロ作品（『ブルー・タートルの夢』、『ナッシング・ライク・ザ・サン』など）
ミロスラフ・ヴィトウス、日野皓正などの作品

ケニー・カークランドの遺した音楽は、時代を超えて多くの人々に聴かれ、愛され続けています。

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