ケバヤ

ケバヤ：東南アジアの伝統衣装

ケバヤ（Kebaya）は、東南アジア、特にインドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、タイ南部などで女性が伝統的に着用する上衣です。フィリピン南部やカンボジアの一部でも見られます。その歴史と文化的な背景、そして現代における多様な展開について詳しく解説します。

ケバヤの起源と歴史

ケバヤのルーツは、アラブ地域の衣装であるアバヤ（عباية）にヒントを得ており、アラビア語で「衣服」を意味します。ケバヤの最も古い形は、ジャワ島のマジャパヒト王国の宮廷で、既存の女性用ケンバン(Kemban)を、イスラム教の教えに合うよう、より控えめで許容できるものとするために取り入れられたと考えられています。当初は貴族の女性が着用するものでしたが、アチェ王国、リアウ、ジョホール王国、スマトラ北部などにも広まり、社会的地位の象徴として用いられるようになりました。

ケバヤという名称は、特に15世紀から16世紀にかけてインドネシアに上陸したポルトガル人によって、特定の衣服を指す言葉として使われるようになりました。17世紀頃からジャワ島では、王室などの上流階級のみがケバヤを着ることが許され、身分の低い人々は男女ともに上半身をあらわにしていたとされています。その後、交易や外交を通じて、マラッカ、バリ島、ボルネオ島、スラウェシ島、スールー王国、ミンダナオ島など周辺地域に徐々に広がっていきました。

1817年には、トーマス・ラッフルズによって今日知られているジャワのケバヤについて言及されました。数世紀を経て、宗教的な文化変容とともに、ケバヤは各地域で独自の民族文化、芸術性、仕立ての伝統を表現する衣服として進化しました。

現存する最古のケバヤの写真は1857年からのもので、ジャワのペラナカン・ユーラシアンスタイルでした。

ケバヤの構成

伝統的なケバヤは、軽量の生地（絹、木綿、麻、ガーゼ、レース、ボイルなど）で作られた前開きのブラウスです。刺繍が施されることもあります。フロント部分は、ボタン、ピン、ブローチで留めます。下衣としては、サロン、ケンベン、カインなどの長い布を腰に巻き付けますが、西洋式のスカートと組み合わせることもあります。

今日のジャワのケバヤは、1817年にラッフルズが言及したものと基本的な構成は変わっていません。綿、絹、レース、錦、ビロードなどの素材が用いられ、中央をブローチで留めます。伝統的なケバヤには前面にボタンはありません。ブローチは通常、3つの部品からなる「kerongsang」と呼ばれるもので、中心となる「kerongsang ibu」と2つの「kerongsang anak」で構成されます。上流階級や貴族は金や宝石で作られたブローチで社会的地位を示しましたが、一般の人々はシンプルなブローチや安全ピンで留めました。ブラウスは半透明であることが多く、インナーとして「kemben」を着用するか、布を胴に巻きます。下はスカートや約3mの布地「カイン」を巻いて着用します。

現代的なケバヤの多様な展開

現代では、ケバヤは伝統的なデザインから離れ、ファッションデザイナーによって改良が加えられ、よりファッショナブルな衣服へと進化しています。カジュアルなデザインのケバヤは、ジーンズやスカートと合わせることができ、結婚式や正式な行事などでも、さまざまなデザインのケバヤが着用されています。レース編みの結婚式用ケバヤも人気です。

現代のケバヤには、洋服の留め金やジッパー、ボタンが取り入れられるなど、より簡略化された形式となっています。航空会社では、シンガポール航空の女性客室乗務員のユニフォームとして、フランス人デザイナーのピエール・バルマンがデザインした、体のラインを強調したケバヤが採用されています。マレーシア航空では、バティックケバヤが女性客室乗務員のユニフォームとして採用されています。ガルーダ・インドネシア航空の客室乗務員のユニフォームは、19世紀のジャワ貴族の女性をイメージした、クラシックなカルティニスタイルのケバヤです。このケバヤは耐火性綿ポリエステルの生地で、サロンは「かぐわしい命の輝き」を意味するバティック模様「parang gondousuli」をモチーフに、ジャスミンのドット柄もデザインに取り入れられています。

2024年には、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイの5か国によるケバヤが、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。

ケバヤは、その長い歴史の中で、地域ごとの文化やファッションの変遷を映し出し、現代においても多様な形で愛され続けている、東南アジアの重要な文化遺産です。

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