ケント級重巡洋艦

ケント級重巡洋艦は、イギリス海軍がワシントン条約の制限下で建造した重巡洋艦であり、カウンティ級重巡洋艦の最初のグループに属します。この艦級は、1922年に締結されたワシントン海軍軍縮条約によって、基準排水量1万トン以下、主砲口径20.3cmという制約の中で設計されました。

概要

1924年度計画において、イギリス海軍は主砲の門数を戦艦と同等の8～9門とすることを望みましたが、当時の技術力では基準排水量を超過してしまうため、速力と防御力を犠牲にし、火力と航続性能を重視した設計となりました。しかし、舷側装甲がわずか25mmしかないという防御力の低さは国内外から批判され、就役後に上部構造物を一部撤去し、装甲を強化する工事が行われました。1920年代後半から順次建造が開始され、艦名に州名（カウンティ）が採用されたことから、カウンティ級と総称されています。

ケント級は、イギリス巡洋艦の特徴である広大なシーレーン防衛のために、優れた航続力、居住性、そして航洋性を備えていました。

艦形

ケント級の基本設計はエメラルド級軽巡洋艦を拡大したものであり、基準排水量が1万トンを超える大型艦となりました。そのため、乾舷は艦首から艦尾まで高く、側面には波浪を切り裂くフレア（反り返り）が付いた平甲板型船体が採用されています。全長192mの船体は幅を抑え、水の抵抗を低減することで、少ない機関出力でも高速を出しやすい形状となっていました。

艦首には20.3cm連装主砲塔が背負い式に2基配置され、2番主砲塔の基部から上部構造物が始まり、その上に塔型艦橋が設置されています。艦橋後方には、簡素な単脚式マストに挟まれるように2番煙突のみが太い3本煙突として配置されています。煤煙が艦橋にかからないよう、煙突は後方に傾斜していましたが、効果が薄かったため、公試中に約4.6m高くする改良が行われました。煙突周辺は艦載艇置き場となっており、8組のボート・ダビッドで運用されました。

中央甲板後方は水上機施設となっており、3番煙突の基部に設けられたクレーンで水上機が運用され、船体後部に格納庫が設置されていました。格納庫上部は後部見張所として利用されていました。後部マストの後方には、20.3cm連装砲塔が後向きに背負い式で2基配置されています。

副武装として、10.2cm高角砲は単装砲架で片舷2基ずつ計4基が3本煙突の側面に配置され、舷側甲板上には53.3cm四連装魚雷発射管が片舷1基ずつ計2基設置されました。舷側には客船のように上下2列の舷窓が並び、植民地を持つ外洋海軍ならではの、高温多湿な環境での乗員の健康を考慮した設計が窺えます。

兵装

主砲

主砲は、新設計の「Mark VIII 20.3cm（50口径）砲」です。116.1kgの軽量砲弾を仰角45度で28,030mまで到達させることができ、俯仰角は-3度から70度、旋回角度は左右150度でした。発射速度は毎分6発でしたが、実用速度は3発程度でした。仰角70度という大仰角は、20.3cm砲を対空砲として使用するという意図によるものでしたが、実際には砲塔旋回水圧ポンプの出力不足や、俯仰速度が速すぎて正確な操作が困難であったため、対空砲としての運用は非実用的でした。この問題から、イギリス海軍は後の「ノーフォーク級」以降、仰角を50度に抑えた新型砲塔を設計しました。

備砲、魚雷兵装

高角砲は「Mark V 10.2cm（45口径）高角砲」を採用し、単装砲架で4基4門を搭載しました。後に連装砲架で4基8門に増強されました。他に近接攻撃用に「ヴィッカース 4cm（39口径）ポンポン砲」を単装砲架で2基搭載しましたが、後に八連装砲架で2基に更新されました。この八連装砲架は複雑な構造のため、実戦では弾詰まりや追従速度の低下を招き、対空火器としては有効ではありませんでした。

魚雷兵装として、53.3cm魚雷発射管を四連装で両舷に1基ずつ計2基装備しました。しかし、本級の高い艦舷から発射される「Mark V魚雷」は着水時に破損事故が多発し、側面を強化した新型魚雷「Mark VII魚雷」が配備されるまで、本級の魚雷兵装は有効ではありませんでした。

機関

イギリス海軍では、第一次世界大戦後に主機関の型式統一が進められ、ボイラーはアドミラリティ三胴式重油専焼水管缶8基、タービン機関はギヤード・タービンが採用されました。しかし、ケント、コーンウォール、カンバーランド、サフォークはパーソンズ式、ベリック、オーストラリア、キャンベラはブラウン・カーチス式と異なっていました。機関出力は80,000shp、最大速力は31.5ノットでした。

防御

ケント級の装甲配置は、舷側に直接装甲板を貼る直接防御方式でした。水線部にはバルジが設けられ、対水雷防御として機能していました。装甲厚は、舷側機関区水線部が25mm、主砲塔側面は無装甲、弾薬庫の壁面が102mm、天蓋が64mm、主甲板が32mmと、防御力が十分ではありませんでした。そのため、1935年から1936年にかけて防御力強化工事が行われ、舷側装甲は114mmに強化されました。

同型艦

本国艦隊
ケント
ベリック
カンバーランド
コーンウォール
サフォーク

オーストラリア海軍に供与
オーストラリア
* キャンベラ

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