コリントスの戦い

紀元前146年にペロポネソス半島で勃発したコリントスの戦い（ギリシャ語ではΜάχη της Λευκόπετρας）は、拡大を続ける共和政ローマと、古代ギリシャの都市国家が形成していたアカイア同盟との間で繰り広げられた決戦です。この戦いの結果、圧倒的な軍事力を持つローマが勝利を収め、当時の地中海世界でも有数の裕福な都市として知られたコリントスは完全に破壊されました。

戦いの背景

紀元前140年代に入ると、共和政ローマはその軍事的優位を確立し、周辺諸国への影響力を強めていました。かつて反乱を起こしたマケドニアを鎮圧した後、ローマはギリシャの各都市国家に対して比較的寛容な政策を採用します。しかし、ギリシャ側はこのローマの姿勢を弱腰と誤解し、傲慢な態度を取り始めるようになりました。特に、コリントスを訪れたローマからの使節団に対して、ギリシャ側が無礼な外交対応を行い、さらに民衆を扇動するという事件が発生します。これにより、ローマはこれ以上の黙認は不可能と判断し、対ギリシャ戦を決意せざるを得ない状況に追い込まれました。

紀元前146年の春、ローマ軍はギリシャ本土への本格的な侵攻を開始します。これに対抗するため、ローマの脅威に直面したギリシャ諸都市の一部が結集したアカイア同盟は、その年の冬、ついにローマに対して宣戦布告を行いました。

戦闘の経緯

ローマ軍の指揮官は当時の執政官であったルキウス・ムンミウスが務めました。彼の率いる軍は、ローマ市民からなる正規兵である2個軍団、すなわち歩兵約23,000人と騎兵約3,500人を中心に編成され、さらにイタリア各地の同盟都市兵、クレタ人傭兵、そしてアッタロス朝の兵士からなる補助部隊（アウクシリア）を加えて、総勢で数万に達しました。この大軍は、アカイア同盟の本拠地の一つであるコリントスを目指し、ペロポネソス半島へ進軍しました。

対するアカイア同盟軍は、将軍ディアイオスに率いられ、歩兵約14,000人と騎兵約600人という、ローマ軍に比べて大幅に劣る兵力でコリントス近郊に陣を敷きました。同盟軍は、数の不利を補うためか、ローマ軍の陣営に対して奇襲を敢行し、ローマ軍に一定の損害を与えることに成功します。翌日も同盟軍はローマ軍への攻撃を継続しましたが、数的優位、特に騎兵の数で圧倒的に勝るローマ軍は、同盟軍の攻勢を確実に受け止めました。

戦況が膠着しかける中、ローマの指揮官ムンミウスは、約1,000人の精鋭歩兵部隊を選抜し、同盟軍の側面または背後を突くよう指示しました。この決定的な maneuver (機動) により、アカイア同盟軍は側面からの予期せぬ攻撃を受け、一気に崩壊の危機に瀕します。同盟軍はしばらく持ちこたえようとしましたが、やがて組織的な抵抗が不可能となり、総崩れとなりました。指揮官のディアイオスは戦場からアルカディア方面へ逃走を図り、指揮系統を完全に失った同盟軍は、もはや防衛線を維持することなく、そのまま潰走するしかありませんでした。

コリントスの破壊とその後の影響

アカイア同盟軍との最終決戦に勝利したローマ軍は、直ちにコリントス市へ進撃しました。裕福な商業都市として知られたコリントスは、ローマ軍によって徹底的に略奪の対象とされました。市内に蓄えられていた豊富な財宝や、貴重な芸術品の数々が奪い尽くされた後、都市は完全に破壊され、灰燼に帰せしめられました。全ての住民は奴隷身分に落とされ、各地へ売却されるという悲惨な運命を辿りました。

この戦いの後、ギリシャの各都市国家は、即時のローマ属州化は免れたものの、以降は完全にローマの覇権のもとで存続することとなります。最終的には、この地域は新たに設置されたローマの属州であるアカエア属州の一部として組み込まれました。コリントスを陥落させた功績により、指揮官ルキウス・ムンミウスは「アカイアの征服者」を意味する「アカイクス」の栄誉称号を授与されました。

興味深いことに、このコリントスの戦いが起こった紀元前146年は、ローマ史において非常に重要な年でした。地中海世界での最大のライバルであったフェニキア人の都市国家カルタゴが、第三次ポエニ戦争の終結により完全に破壊され、アフリカ属州が設置されたのもこの年です。また、前々年の反乱（第四次マケドニア戦争）に失敗したマケドニアもこの頃までにローマに吸収され、マケドニア属州が設置されています。紀元前146年は、まさにローマが地中海世界の覇権を確立した記念碑的な年と言えるでしょう。

徹底的に破壊されたコリントスでしたが、考古学的な調査からは、数年後には小規模ながら住民が戻り、居住を再開していた形跡が発見されています。そして、紀元前45年頃、ガイウス・ユリウス・カエサルの命令により、ローマの植民市「コロニア・ラウス・ユリア・コリンティエンシス」として大規模な再建が行われ、都市は再び繁栄を取り戻すことになります。

このコリントスの戦いは、ローマが同盟関係にある諸国に対するそれまでの寛容な政策を見直す上で、重要な転換点となりました。この勝利とコリントスの破壊が示した冷徹な姿勢は、ローマの今後の対外支配のあり方に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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