コンスタンティノープル競馬場

コンスタンティノープル競馬場：歴史と記憶が交差する場所

コンスタンティノープル競馬場、かつての東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル（現在のイスタンブール）に存在した、壮大なキルクス（古代ローマの競技場）です。現在はスルタンアフメト広場（またはアト・メイダヌ）としてその名残をとどめ、歴史の舞台として静かに佇んでいます。

ヒッポドロームとは

「ヒッポドローム」とは、古代ギリシャ語で「馬 (hippos)」と「道 (dromos)」を組み合わせた言葉で、競馬や戦車競走を行うための競技場を意味します。コンスタンティノープル競馬場は、まさにその名の通り、古代の人々にとって娯楽の中心地でした。

競馬場の歴史

競馬場の起源は、コンスタンティノープルがまだビュザンティオンと呼ばれていた時代に遡ります。203年、ローマ皇帝セプティミウス・セウェルスが都市を再建する際に、競技場として建設されました。その後、コンスタンティヌス1世がビュザンティオンをコンスタンティノープルと改名し、首都として整備する過程で競馬場も修復されました。

当時の競馬場は、長さ450メートル、幅130メートルと推定され、10万人もの観客を収容できたと言われています。トラックはU字型で、皇帝専用席（カティスマ）は大宮殿と隣接し、皇帝とその家族が直接行き来できる通路が設けられていました。トラックの北西端には、レースのスタート地点となるHippoddrome Boxesがあり、その上には4頭の金メッキされた青銅製の馬の彫像が飾られていました。これらの彫像は、現在はヴェネツィアのサン・マルコ寺院のファサードに設置されています。

市民生活の中心として

東ローマ帝国時代、コンスタンティノープル競馬場は市民生活の社会的中心でした。戦車競走は年間100日以上開催され、人々は莫大な金額を賭けました。競走には青、緑、赤、白の4つのチームが参加し、それぞれのチームは元老院の政治勢力と結びついていました。中でも青と緑のチームが勢力を拡大し、市民はそれぞれのチームを熱狂的に応援しました。

戦車競走は単なるスポーツイベントではなく、皇帝と一般市民が交流する貴重な機会でもありました。また、皇帝の即位式や凱旋式、公開処刑など、政治的なイベントも競馬場で行われました。しかし、青と緑のチームの対立は、政治的、宗教的な思惑と絡み合い、しばしば騒動や内戦を引き起こしました。532年には、ニカの乱と呼ばれる大規模な反乱が発生し、競馬場に集まった反乱派の市民が多数殺害されるという悲劇も起きました。

衰退と現在

7世紀以降、東ローマ帝国は領土を失い、財政も逼迫したため、競馬場の開催回数は激減しました。1204年の第4回十字軍によるコンスタンティノープル略奪後、競馬場は以前のように完全に回復することはありませんでした。1453年にオスマン帝国がコンスタンティノープルを占領すると、競馬場は忘れ去られていきました。しかし、その跡地は完全に別の建物で覆われることもなく、現在ではスルタンアフメト広場として、その名残をとどめています。

競馬場を飾った記念碑

コンスタンティノープル競馬場には、様々な記念碑が設置されていました。中でも有名なのは、以下の3つです。

蛇の柱： プラタイアの戦いの戦勝を記念して作られた祭壇の一部で、3匹の蛇が絡み合った青銅製の柱です。現在は、蛇の頭部の一部がイスタンブール考古学博物館に展示されています。
トトメス3世のオベリスク： エジプトから運ばれたオベリスクで、紀元前1490年にルクソールのカルナック神殿に建てられたものです。3500年前のものであるにもかかわらず、非常によい状態で維持されています。
* コンスタンティノス7世のオベリスク： 10世紀に建てられたオベリスクで、元々は金メッキされた青銅製の板で覆われていましたが、第4回十字軍によって略奪されました。現在は、石積みの中核部分のみが残っています。

現在のスルタンアフメト広場

現在、スルタンアフメト広場には、かつての競技トラックを示す舗道や、蛇の柱、トトメス3世のオベリスク、コンスタンティノス7世のオベリスクなどの記念碑が残っています。また、広場の北側には、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の訪問を記念して建てられたドイツの泉があります。

スルタンアフメト広場は、かつてのコンスタンティノープル競馬場の記憶を今に伝える、歴史的な場所です。イスタンブールを訪れる際には、ぜひ足を運んでみてください。

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