ゴットリープ・ムッファト

ゴットリープ・ムッファト（1690-1770）は、18世紀の重要な音楽家であり、特に鍵盤楽器のための作曲家および優れたオルガニストとしてウィーンの宮廷で活躍しました。彼はまた、多くの著名な人物を教えた音楽教育者としても評価されています。

生涯

著名な作曲家ゲオルク・ムッファトの子として、ゴットリープは1690年 4月25日にパッサウで生を受けました。1704年に父が亡くなった後、彼は兄弟と共にウィーンへ移ったと推測されており、そこで高名なヨハン・ヨーゼフ・フックスのもとで研鑽を積んだと考えられています。ウィーンの宮廷に仕える音楽家となったムッファトは、その才能を認められ、1741年には首席オルガニストの地位に昇り詰めました。彼は宮廷での演奏活動に加え、教育者としても重きをなしました。教え子の中には、作曲家ゲオルク・クリストフ・ヴァーゲンザイルや、後の神聖ローマ皇帝フランツ1世とその妃マリア・テレジアといった皇族も含まれており、その指導力の高さがうかがえます。長年宮廷に貢献した後、ムッファトは1763年に現役を退き、年金生活に入りました。そして、1770年 12月9日、ウィーンでその生涯を終えました。

音楽スタイルと作品

ムッファトの作曲活動は、ほぼ鍵盤楽器のための音楽に集中していました。彼の音楽スタイルは、師であるフックスからジローラモ・フレスコバルディの『音楽の花束』を学んだ影響もあり、古い時代の音楽様式への深い敬愛に特徴づけられます。フレスコバルディのほか、フローベルガー、ポリエッティ、クープランといった先達や同時代の作曲家たちの影響が彼の作品には色濃く見られます。一方で、彼は同時代の重要な作曲家であるゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの新しい形式や表現とも共通点を持っており、単に古風なだけでなく、時代の流れも取り入れていたことがうかがえます。興味深いことに、1740年代以降に作曲されたとされる彼の作品は、現在ほとんど残存していません。その理由は明らかになっていませんが、彼の創作活動のピークはそれ以前にあったと考えられます。生前に出版された彼の主要な作品集としては、『72 Versetl sammt 12 Toccaten』（1726年、ウィーン刊）と『コンポニメンティ・ムジカーリ』（Componimenti musicali per il cembalo、チェンバロ音楽作品集、1739年、アウグスブルク刊）があります。『72 Versetl』は、12曲のトッカータそれぞれに6曲のフーガが組み合わされた独特の構成を持っています。一方、『コンポニメンティ・ムジカーリ』は、イタリアオペラ風の旋律からオーストリアの民謡のような親しみやすいスタイルまで、非常に多様な音楽様式を含む作品集であり、彼の音楽的視野の広さを示しています。

ヘンデルとの音楽的関係

ゴットリープ・ムッファトの音楽、特に『コンポニメンティ・ムジカーリ』は、同時代の最も偉大な作曲家の一人、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルに強い影響を与えたことで特に注目されます。ヘンデルは自身の作品において、他人の作品からの楽想や素材を借用することが知られていましたが、ムッファトの『コンポニメンティ・ムジカーリ』から多大な影響を受けました。この作品集が出版されて間もない1739年に作曲されたヘンデルの『聖セシリアの日のための頌歌』や、同年の合奏協奏曲集作品6には、『コンポニメンティ・ムジカーリ』からの楽想や素材が数多く引用されていることが研究によって明らかになっています。これは、ムッファトの音楽がいかに質の高いものであったか、そしてヘンデルのような巨匠でさえも学ぶに値するものだったかを示す証拠と言えるでしょう。興味深いのは、ムッファト自身もヘンデルの作品に関心を寄せていたことです。ヘンデルのハープシコード組曲第1集に対して、ムッファトが自筆で多数の装飾音符などを書き加えたバージョンが存在しており、これは二人の音楽家が相互に影響を与え合っていた可能性を示唆しています。このように、ムッファトとヘンデルの関係は、単なる片方向の影響に留まらず、当時の音楽家たちの交流や音楽スタイルの伝播を理解する上で非常に興味深い側面を提供しています。

結び

ゴットリープ・ムッファトは、ウィーン宮廷における鍵盤楽器音楽の伝統を担い、古い様式への深い理解と、同時代の新しい音楽への関心を併せ持った作曲家でした。教育者としても多くの後進を育成し、特にヘンデルに与えた影響は、彼の音楽が持つ普遍的な価値と質の高さを物語っています。1740年代以降の作品が失われていることは惜しまれますが、現存する作品、特に『コンポニメンティ・ムジカーリ』は、彼が多様なスタイルを巧みに操り、豊かな表現力を持っていたことを今に伝えています。ウィーン古典派の成立を準備した時代における、重要な鍵盤音楽の作曲家の一人として、彼の功績は高く評価されるべきでしょう。

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