サラフィー主義

サラフィー主義：初期イスラムへの回帰と現代社会

サラフィー主義は、イスラム教スンナ派における重要な思想潮流の一つです。その中心となる考え方は、イスラム教が成立した初期の時代（サラフ）を理想とし、現代社会におけるあらゆる問題解決の指針として、その時代の純粋な教えと実践に回帰すべきとするものです。しばしばスンナ派の厳格派と認識されますが、単なる復古主義ではなく、理想とする「原点」そのものが何かを厳しく問い詰める思想的深みも持ち合わせています。

歴史と思想的背景

サラフィー主義のルーツは、13世紀から14世紀にかけて活躍したハンバル学派のイブン・タイミーヤにまで遡ります。彼は、イスラム社会の堕落を憂い、聖典（コーランとスンナ）に基づく厳格な生活様式と社会秩序の回復を訴えました。彼の思想は、後のサラフィー主義運動の礎となり、その後のワッハーブ派などの派生を生み出しました。近現代においては、ラシード・リダーが重要な役割を果たし、サラフィー主義の思想体系をより体系的に確立しました。

サラフィー主義の特徴として、シャリーア（イスラム法）の厳格な適用を主張することが挙げられます。聖者崇拝やスーフィズム、シーア派など、サラフィー主義者たちが異端視する思想や慣習は強く否定されます。また、カラーム（神学論争）に対しても否定的です。

サラフィー主義と政治

サラフィー主義は、政治的な側面も強く持ち合わせています。多くのサラフィー主義者は、シャリーアに基づいたイスラム国家の樹立を求めます。しかしながら、その運動の多くは、非暴力的な手段を採ります。

ただし、シャリーアの施行などを目的として武力行使（ジハード）を正当化し、それを優先するグループも存在します。1990年代以降に台頭してきたこれらのグループは、「サラフィー・ジハード主義」などと呼ばれ、従来のサラフィー主義とは明確に区別されます。

経済観と社会運動

ムスリム同胞団のような組織も、ラシード・リダーの影響を受けたサラフィー主義を源流とするものと見なされます。しかし、ムスリム同胞団は社会福祉に重きを置き、経済的平等や貧富の格差問題にも積極的に取り組んできました。その社会政策は、必然的に大きな政府指向となります。

一方、アラブの春以降、サウジアラビアのワッハーブ派の影響が強まったサラフィー主義では、イスラム金融（利子を禁止する金融システム）を重視しつつも、商業や経済活動には肯定的な姿勢を示しています。市場[[経済]]を容認し、国家による介入は最小限にとどめるべきとする「夜警国家」志向も観察されます。

アラブの春以降、ムスリム同胞団系とサラフィー主義系は、それぞれ異なる宗教政党を結成し、政治的な競争を繰り広げてきました。

中国においても、サウジアラビアの支援を受けて広まったサラフィー主義を信奉するグループが存在します。彼らは、中国共産党政府から公認を得るまで迫害を受けてきた歴史を持ち、穏健派のグループやウイグル族の独立運動とも対立関係にあります。

世界各地におけるサラフィー主義

エジプト、チュニジア、イエメンなど、多くのイスラム圏諸国でサラフィー主義を基盤とする政党が誕生し、政治活動を行っています。これらの政党は、それぞれの国の政治情勢や社会状況に応じて、異なる戦略や政策を採っています。

サラフィー主義は、現代イスラム世界における重要な政治的、宗教的勢力であり、その影響は今後ますます大きくなっていく可能性があります。その思想や運動の多様性、複雑性を理解することは、現代世界を理解する上で不可欠です。

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