サン・アントニオ級ドック型輸送
揚陸艦は、
アメリカ海軍が運用するLPD (ドック型輸送
揚陸艦) の艦級です。
1980年代後半からの研究開発を経て、老朽化した既存の
揚陸艦を代替するために建造されました。本級は、従来の
揚陸艦の機能を統合し、さらに近代的なステルス技術を取り入れることで、高い多用途性を誇ります。
艦艇の来歴と設計
アメリカ海軍は、
1980年代から海兵隊と共に
揚陸艦の近代化と輸送能力向上に取り組んできました。その結果、多様な艦艇で構成されていた従来の両用即応群を、LHA/LHD
強襲揚陸艦、LPD、LSDという標準的な構成に改編する計画が策定されました。この計画に基づき、老朽化したトーマストン級とアンカレッジ級LSDの後継としてホイッドビー・アイランド級とハーパーズ・フェリー級が建造された後、本級の建造が始まりました。
設計段階では、
アメリカ海軍の
揚陸艦として初めて
ステルス性能が重視されました。特徴的な八角柱状パネルで覆われた先進型のマストは、
レーダー波の反射を低減する設計となっています。また、AN/SPQ-9B、AN/SPS-73(V)13、AN/SPS-48Eといった各種
レーダーが搭載され、オースティン級と比較して
レーダー反射断面積(RCS)を大幅に削減することに成功しています。
居住区は、士官用と海兵隊員用など、階級別に区画されています。艦内生活の質向上のため、就寝・起床兼用の寝台や艦内ネットワーク(SWAN)なども導入されています。主機関は、ホイッドビー・アイランド級とハーパーズ・フェリー級と同様の
CODAD方式で、
ターボチャージャー付きのコルト・ピルスティク16PC2-5 STC中速
ディーゼルエンジン4基を搭載しています。機械室は複数の区画に分割され、被弾時の生存性向上に配慮された設計となっています。
輸送能力と運用能力
サン・アントニオ級は、オースティン級、チャールストン級、ニューポート級といった複数の
揚陸艦を代替する能力を備えています。クレーンによる重量物揚陸、擱座着岸、揚陸指揮といった機能は備えていませんが、これら全ての艦艇を合わせた以上の輸送能力を持っています。
3層構造の車両甲板(2,323m²)は、多数の車両や物資を搭載可能です。搭載能力は物資963m³、パレット搭載弾薬708m³、弾薬庫1,007m³、
ジェット燃料1,196m³、ガソリン38m³と多岐に渡ります。また、
海水淡水化装置5基により、1日あたり225,000
リットルの真水を生成できます。
病院船機能も備え、24床の病床と2室の
手術室を有し、必要に応じて100床まで拡張できます。航空運用能力も高く、MV-22B 2機またはCH-46E 4機を搭載可能です。また、艦尾の
ウェルドックにはLCAC 2隻、
LCU 1隻、
AAV7 14両などを収容できます。
戦闘システムと兵装
アメリカ海軍のネットワーク中心戦の構想に基づき、強力な戦闘指揮システムと
C4Iシステムを搭載しています。ACDSブロック1やSSDS Mk.2、JTIDS、CECなどのシステムにより、優れた情報共有と戦術状況評価能力を備えています。AN/USQ-119C(V)27 JMCISやAN/KSQ-1 AADSといったシステムにより、
水陸両用作戦の指揮統制を行います。
兵装は、RAM近接防空ミサイル21連装発射機2基とMk.46 30mm機関砲を搭載します。当初計画には
ESSM個艦防空ミサイル発射機Mk.41
VLSの搭載が予定されていましたが、コスト削減のため全艦で削除されました。
同型艦とその後継
2024年9月までに13隻が就役しています。1番艦の建造費は約14億USドルでした。12番艦「フォート・ローダーデール」以降は、「フライトII」に準拠した設計変更が行われています。ステルスマストが一般的な鋼材ラティスマストに変更され、高温超伝導体を使った対
機雷防御用消磁システムを採用するなど、コスト削減が図られています。
フィクション作品への登場
サン・アントニオ級は、小説やゲームなど様々なフィクション作品に登場しています。主な作品としては、『日中開戦7 不沈砲台』、『攻撃目標を殲滅せよ』、『
大戦略シリーズ』、『
マーセナリーズ2 ワールド イン フレームス』、『
エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』、『
コール オブ デューティシリーズ』(MW3、BO2)などがあります。これらの作品では、艦艇の名称や役割、描写などが様々で、実艦とは異なる点も存在します。
参考文献
アメリカ
揚陸艦史 『
世界の艦船』 2007年1月号増刊
海人社
外部リンク
Global Security
* Congressional Research Service