サーサーン朝のエルサレム征服

サーサーン朝によるエルサレム征服（614年）

614年初頭、東ローマ・サーサーン戦争中、サーサーン朝ペルシアがエルサレムを征服しました。この出来事は、単なる軍事的な勝利以上の意味を持ち、宗教的、政治的な複雑な背景が絡み合っています。

背景：東ローマ帝国の迫害とユダヤ人の反乱

東ローマ帝国によるユダヤ人やサマリア人への迫害は、度重なる反乱を引き起こしていました。ユダヤ人は、かつてサーサーン朝初期にはローマ帝国を支援していましたが、東ローマ帝国の支配下では迫害される立場に変わっていました。そのため、ユダヤ人はサーサーン朝の侵攻を支援する動きを見せました。

135年のバル・コクバの乱以降、ユダヤ人はエルサレムへの立ち入りを禁じられていましたが、ユリアヌス帝の治世やサーサーン朝占領期（614年～617年）には特例として許可されました。しかし、それ以外の期間は、アラブ人ムスリムによる征服まで、ユダヤ人のエルサレム退去が続きました。

征服の過程

ホスロー2世は、将軍シャフルバラーズにオリエンス管区への侵攻を指揮させました。サーサーン朝軍は、アンティオキアの戦いやカイサリア・マリティマの包囲戦で勝利を収め、地中海へのアクセスを確保しました。ユダヤ人も東ローマ帝国に反旗を翻し、ガリラヤ地方で武装蜂起しました。約2万人から2万6千人のユダヤ人がサーサーン朝軍に加わり、エルサレム攻略に参加しました。

614年半ば、ユダヤ人とサーサーン朝はエルサレムを攻略しました。陥落までの経緯は資料によって異なり、無抵抗での占領とも、包囲戦と城壁の突破によるものとも言われています。

占領後のエルサレム

エルサレム占領後、その支配権はユダヤ人のNehemiah ben Hushielとティベリアのベニヤミンに渡り、Nehemiah ben Hushielはエルサレムの統治者に任命されました。ユダヤ人たちは大祭司の地位を復活させ、第三神殿を建設しようとしました。しかし数か月後、キリスト教徒が反乱を起こし、多くのユダヤ人が殺害されました。

生き残ったユダヤ人たちはシャフルバラーズの元へ逃げ込み、その軍隊がエルサレムを包囲しました。キリスト教徒は短期間エルサレムを奪還しましたが、サーサーン朝軍によって再び包囲され、陥落しました。

キリスト教徒の犠牲と聖遺物の略奪

包囲戦では多くのキリスト教徒が犠牲になり、その数は資料によって異なりますが、数万人規模に及ぶとされています。エルサレム総司教ザカリアスを始めとする数万人が奴隷として売り飛ばされ、市街は焼き払われました。キリスト教徒にとって重要な聖遺物である聖十字架は略奪され、サーサーン朝の首都クテシフォンに持ち帰られました。

サーサーン朝の統治方針転換と東ローマ帝国との和平

当初、サーサーン朝はユダヤ人を優遇していましたが、617年にはメソポタミアのキリスト教徒からの圧力により、統治方針を転換し、キリスト教徒を重視するようになりました。ユダヤ人はエルサレムから追放され、居住を禁止されました。

628年、ホスロー2世が廃位され、カワード2世が東ローマ皇帝ヘラクレイオスと和平を結びました。パレスチナ・プリマと聖十字架は東ローマ帝国に返還され、630年にはヘラクレイオスが聖十字架を携えてエルサレムに凱旋しました。しかし、ユダヤ人に対するヘラクレイオスの態度は一転し、虐殺が行われました。

資料と考古学的検証

エルサレム陥落に関する記録は、セベオス、ストラテギウス、ディオニュシオス、テオファネスなど、様々な歴史家や年代記に記述されています。これらの資料は、犠牲者数や事件の詳細について異なった情報を提供しています。考古学的な検証も行われていますが、大規模な破壊の痕跡は見つかっておらず、人口への影響は限定的だったと考えられています。

結論

614年のサーサーン朝によるエルサレム征服は、東ローマ帝国とサーサーン朝の対立、ユダヤ人の反乱、宗教的な対立が複雑に絡み合った出来事でした。この事件は、エルサレムの歴史において重要な転換点となり、その後のイスラム教徒による征服へとつながっていきます。

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